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「黄金株」とは?――M&Aでの知られざる活用方法!

[著]:小川 潤也

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2024年2月、フレデリック・ラル―著『ティール組織』などのヒット作を手がけた気鋭の出版社である英治出版株式会社が株式会社カヤック(通称・面白法人カヤック)の傘下に入ることが明らかになりました。この買収劇では、いわゆる「黄金株」を1株だけ英治出版の従業員サイドに残すというユニークな手法が取られました。

それでは、黄金株とはどのようなものなのでしょうか? 黄金株の具体的な活用方法やメリット・デメリットを徹底解説します。

パーパスを守り続けるために「黄金株」を活用した事業承継

カヤックは、ゲームアプリや広告・Webサイト制作を手がける東証グロース上場企業です。カヤックは英治出版の発行済株式数の約99.9%を取得する一方で、1株は黄金株として英治出版の従業員で構成される社団に残すことにしました。

その狙いは、英治出版が大切にしてきた「Publishing for Change “みんなのものにする”ことを通して人・組織・社会の未来づくりを応援する」というパーパスを社員みんなで大切にしていくためです。たった1株でも黄金株を所有していれば、社員たちはパーパスの変更を拒否できることになります。

「黄金株」とは?

それではなぜ、パーパスの変更を拒否できるのでしょうか? 黄金株を持つ株主が株主総会の決議で拒否権を行使した場合、その議案は成立しないからです。黄金株は種類株式の1つで、「拒否権付株式」とも呼ばれます。黄金といっても、1株あたりの価値が特別高いわけではありません。ただし、1株でも持っていれば、予め、定めておいた決議事項について、株主総会や取締役会で拒否権を持つことができるのです。

根拠となる会社法の条文はこちらです。

第百八条 株式会社は、次に掲げる事項について異なる定めをした内容の異なる二以上の種類の株式を発行することができる。(以下略)
八 株主総会(取締役会設置会社にあっては株主総会又は取締役会、清算人会設置会社(第四百七十八条第八項に規定する清算人会設置会社をいう。以下この条において同じ。)にあっては株主総会又は清算人会)において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とするもの

「黄金株」活用の種類

下記の事項に関して、拒否権付きの株式を発行できます。また、これらは登記事項になります。

役員に関する事項
 ・取締役の選任や解任
 ・取締役の報酬の決定
 ・代表取締役の選任や解任

財務に関する事項
 ・重要な会社財産の譲渡
 ・多額の融資を受けること

会社の人事や組織に関する事項
 ・事業譲渡や合併
 ・新株の発行
 ・会社の組織に関する変更
 ・重要な従業員の人事

この事項をご覧いただくとわかるように、会社の方向性を決めることの関して、拒否権を設定できるようになっております。

例えば、自分の目の黒いうちはM&Aで第3者へ承継するのは防ぎたいのではあれば、事業譲渡や合併、新株の発行に拒否権を持てばいいのです。また、役員の人事は相談してほしいとなれば、役員の選任や解任に拒否権をもつことで承継者へのけん制になります。

「黄金株」のデメリットは?

黄金株は強力な効果がある“劇薬”なだけに、強い“副作用”が起きる恐れがあります。

黄金株のデメリットは次の4つあります。

1.不都合な相手に黄金株が渡る恐れがある
黄金株が不都合な株主の手に渡ってしまうと、株主総会で議案が拒否されて廃案になる恐れが出てきます。経営者が思うように経営権を行使できなくなるのです。
そうならないように、黄金株を勝手に譲渡できない「譲渡制限」を定款に定めることで、防止できます。例えば、株式の譲渡は取締役会の承認が必要など。

2.拒否権の意味は何か、それは親心。
黄金株を持つ先代は、後継者が自分の意にそぐわない決定をしようとしたら拒否できます。しかし、先代が拒否権を乱用すると後継者はやる気を失ったり、不満を募らせたりしてしまいかねません。

そうならないために両社はお互いを尊重することが大事ではないでしょうか?

先代は後継者を心配するあまり、いざというときのために拒否権を持つのであり、それは相談してほしいという、親心だと思って、後継者は先代とコミュニケーションをはかり、良好な関係を築いていれば、拒否権を行使することはないと思います。

3.事業承継税制を使えない
事業承継にあたって、贈与税・相続税が猶予・免除される事業承継税制は利用価値の高い制度ですが、黄金株を後継者以外の人物が持っていると、利用できません。つまり、先代が黄金株を持ったままでは事業承継税制を使えないのです。

事業承継税制を使うなら、黄金株を後継者に渡すか、廃止するしかありません。

まとめ

英治出版は、パーパス重視の事業承継のために黄金株を活用するという新たな手法で注目されました。また、親族間承継の場合にも黄金株は株主総会で拒否権を持つという大きなメリットがある反面、デメリットもあります。

お金ではなく、先代の親心をもって、会社を見守りたいという意味での導入はメリットがあると思います。しかし、後継者はいつになったら、自由にさせてもらえるのかという不満も同時に発生するという二面性もありそうです。

優先順位を慎重に検討するとともに、十分なリスク対策をしましょう。

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著者

小川 潤也

株式会社絆コーポレーション
代表取締役

1975年新潟県新潟市(旧巻町)生まれ。株式会社絆コーポレーション代表取締役社長。大学卒業後、株式会社富士銀行(現・みずほ銀行)入行。法人担当として融資、事業再生、M&Aなどの総合金融サービスを手がける。2004年、医療介護の人材サービスを手がける株式会社ケアスタッフの代表取締役に就任。また銀行勤務時代に培った新規取引先の開拓やM&Aでの経験を生かし、地方都市の後継者不在、事業承継ニーズに応えるべく、株式会社絆コーポレーションを設立。M&Aアドバイザリー事業、スペシャリストの人材紹介事業を展開。著書に『継がない子、残したい親のM&A戦略』(幻冬舎)がある。
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