しかし、ディールの件数が急増する一方で、M&Aの「落とし穴」にハマって失敗する人も増えているのです。
今回は、M&Aで売り手側が知っておくべき注意点を解説します。
M&Aの交渉が始まる前の注意点
まず、M&Aを検討して買い手選びをスタートし、本交渉に入る前に気をつけるべきポイントを紹介しましょう。
パートナーを慎重に選ぶ
M&Aの通常のプロセスにおいては、M&A仲介会社やアドバイザリー会社といったパートナーに依頼してディールを進めます。
プロの手を借りずにM&Aを実行するのも不可能ではありませんが、社長自身が交渉相手に直談判し、価格交渉から意向のすり合わせまで独力でまとめ上げるのは、非常に困難です。
しかし、M&A業者には国家資格などがあるわけではなく、プロを名乗っていても質はまちまちです。
自社の属する業界の取り扱い実績があるか、どんな知識や経験を持っている会社であるのかなどをしっかり確認して、自社のM&Aに最適なパートナーを選びましょう。
秘密を絶対に漏らさない
M&Aは、「秘密保持に始まり秘密保持に終わる」といわれます。
成功させるためには、M&Aの検討を進めている事実を隠しておくことが重要なのです。
もしもM&A検討の話が外部に漏れると、「業績悪化で身売りするらしい」といった話に飛躍しがち。
そのせいで取引先から契約を打ち切られたり、従業員がいっせいに離職したりといった致命的なダメージが発生する危険があるのです。
M&Aの話は、社内外には絶対に秘密にしてください。それが信頼できる相手でも、どこから話が漏れるかわかりません。
買い手側の状況と意向をしっかり確認する
M&Aのパートナー会社が出してくれた企業リストから買い手候補を絞り込んだら、パートナーを通じてM&Aについて打診してもらうことになります。
この際、買い手候補がどのような経営状態にあるのか、なんのための買収意向であるのかなどを必ず確認してもらってから、交渉に進むようにしましょう。
買収のニーズがあるとしても、売り手側の意図とはじめから食い違うような相手であれば、交渉する意味はありません。
「信頼できそうな買い手候補だ」と売り手側が思えた相手にのみ、交渉をオファーしましょう。
M&A交渉開始後の注意点
次に、実際に買い手候補との交渉が始まった後に気をつけるべきポイントを解説しましょう。
事実を正確に伝える
M&Aにおいて、売りたい気持ちが強すぎるがゆえに、自社を実態よりよく見せようとしてしまうケースが多くあります。
しかし、嘘はいずれ必ずバレます。資産を実際より多く見せていたり、負債を少なく見せていたりすれば、M&A成立前のデューデリジェンスという企業調査で発覚することになります。
もしもM&Aが成立してから不正が発覚した場合、買い手企業からの訴訟問題に発展する危険もあるので、M&A交渉において嘘は絶対に禁物なのです。
希望価格の根拠を明確にする
M&Aにおいて1円でも高く売りたいというのは、売り手の思いとして当然のこと。
しかし、買い手が可能な限り安く買おうとするのも、また当然。
そもそも会社の値段には、上場株式や不動産のような相場はありません。したがって、売り手側が提示する希望価格に対し、買い手が合理的な計算に基づいていると納得しなければ、安く買い叩かれるリスクがあります。
とはいえ、売却価格の根拠を算定するのは、初心者にはほとんど不可能。高値売却のためには、売り手の意向を汲んだM&Aのパートナー会社に、算定価格の根拠を明確にまとめてもらう必要があります。
買い手の要望にはスピーディに対応する
M&A交渉の最中は、買い手側から質問をされたり資料の提出を求められたりする場面がよくあります。
交渉の現場だけではなく、買い手側の検討期間中にも追加資料の要求が来ます。
その際、くれぐれも対応はスピーディにすることが大切。相手の要望に対して対応が遅れると、買い手の不信感を招いてしまいます。
自社が依頼しているM&Aのパートナー会社に事前に相談し、よく質問される内容などは、交渉開始前に整理しておきましょう。
まとめ
会社は売るというのは、ほとんどの経営者にとって初めての経験です。
まったく知識をもたずにM&Aに臨めば、交渉が進んでも思わぬ落とし穴にハマって、せっかくの申し出が破談になってしまうかもしれません。
経営者自身が最低限の知識を学んだうえで、信頼できるパートナーと二人三脚で進めましょう。
小川 潤也
株式会社絆コーポレーション
代表取締役