しかし近年、経営者の高齢化などを背景に、日本の製造業を支えてきた中小零細の町工場の多くが事業承継を課題にしています。
そんな製造業の事業承継とM&Aについて、他の業界にはない特徴と直近のトレンドを解説します。
製造業における事業承継・M&Aの特徴とは?
まず、製造業の会社が事業承継とM&Aを考える際、押さえるべきポイントを解説します。
「職人技術」の伝承が不可欠
製造業の事業承継を考えるうえでの最大の論点は、やはり「技術」でしょう。中小企業であればあるほど、その会社で長年技術を磨いてきた職人の存在が、生産において必須になります。
工場さえ引き継げば簡単に製品が作れるというメーカーは、ほとんどないはずです。
したがって、製造業の承継においては単に経営を引き継ぐだけではなく、職人に蓄積された専門技術を次代に受け継いでいく方法を必ず考えなければいけないのです。
メーカーならではの基準で企業評価を下される
「技術」が重要である点に関連して、製造業の会社がM&A などによる事業承継を考える際、以下のような要因が自社の評価に大きく影響するという特徴があります。
・職人の技術力
・職人の年齢
・製造設備のスペック
・工場建物と土地の不動産価値
・知的財産権(特許)
・取引先網
特に技術力や知的財産権があっても、職人が60代や70代が大半という会社は技術の承継が困難です。M&Aで買収しても、職人も一緒に引退するようでは価格をつけるのは難しいです。
地方都市のものづくりを支えている技術力がある、町工場は職人の高齢化が大きな問題となっています。
M&Aを検討する際、生産設備、土地建物の評価はもちろんですが、職人が引き継げるか、ここが一番大きな要素になってきております。
廃業が他社にも大きく影響する
さらに、製造業の場合、上流となる会社から末端の下請け会社に連なる大きな流れのなかに位置する会社がほとんどなのも、大事なポイントです。
どういう意味かと言うと、流れのなかで役割を占める一社がもし事業承継できずに廃業してしまうと、最終製品生産の大きな流れ自体が破綻してしまう可能性があるのです。場合によっては、一社の廃業が多くの企業の連鎖倒産を招く危険もあります。そうなれば地域経済への被害は甚大です。
製造業においては、ほかの業種にもまして、事業承継という課題の緊急性は非常に高いといえるでしょう。
製造業の事業承継のトレンドは?
続いて、製造業の事業承継について、近年はどんなトレンドになっているのかを見ていきましょう。
中小企業同士のM&Aが増加傾向に
製造業においては会社自体の数が非常に多く、高齢経営者も多いことから、近年ではM&Aの件数が増える一方です。
特に注目したいのは、大手企業の主導による大型M&A案件がひと段落し、中小企業同士のM&A件数が増加している点。
高齢経営者は昔のままの感覚で「M&Aなんて大掛かりな話は自分の会社には関係ない」と考えている場合も多いですが、業界では譲渡価格5億円未満のM&A、なかには譲渡価格1億円未満の案件も珍しくなくなっています。
中小製造業の会社にも、M&Aは身近な承継手法になってきているのです。
従来なかったパターンのM&Aが増えている
くわえて、従来は製造業同士のM&Aが中心であったのが、異業種が製造業の会社を買収するケースが増えている点も、注目したいトレンドです。具体的には、製品を扱う商社や部品加工会社などが、競争力の強化を目的として製造業の会社をM&Aする件数が多くなっています。
こうしたM&Aはビジネスを商流のタテ方向に拡大するという意味で、「垂直統合型M&A」と呼ばれています。
ほかには、投資ファンドや再生ファンドなど外部の大きな資本が中小製造業の会社を買い取り、大きな経営改革によって企業価値を高めるケースも出てきているようです。
総じていえば、中小製造業の事業承継を取り巻くマーケットは非常に活発になっているのです。
まとめ
ご存じのとおり、モノづくり産業は戦後の日本の発展を下支えしてきた重要な産業です。それだけに、製造業の事業承継問題を解決しようという機運は、官民問わず非常に高まっています。
後継者不在で会社の引き継ぎを諦めている経営者であっても、各種窓口に相談することで解決策が導き出される場合もあります。
一人で悩まず、まずはプロに助言をあおいでみましょう。
小川 潤也
株式会社絆コーポレーション
代表取締役