ローカルM&Aマガジン

M&Aネット業者の営業を信頼していいのか?

投稿日:2024年7月30日

[著]:小川 潤也

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「M&AマッチングサイトなどのネットM&A業者からの営業がすごい」――最近、中小・零細企業の経営者からそんな声がよく聞かれるようになりました。

果たして、ネット業者の営業マンの言葉を信用してM&Aマッチングサイトに登録し、M&Aをまかせていいのでしょうか? メリットとデメリットを徹底解説します。

ネットM&A業者が急増

婚活からスキル、人材、投資用不動産まで、今やマッチングサイト花盛り。マッチングサイトは成長を続け、市場規模は2兆円を超えているともいわれています。

この世の中の流れに乗って、M&Aの世界でも売り手と買い手を橋渡しするプラットフォームが激増しました。インターネットで「M&Aマッチングサイト」で検索すると、「おすすめ20選」といったまとめサイトがいくつもヒットするくらいです。

売り手がM&Aマッチングサイトを利用するメリットは主に次の3つです。

1.コストを抑えられる

M&A仲介会社に依頼すると手数料が発生しますが、M&Aマッチングサイトは売り手企業の「手数料無料」「完全無料」をうたっているケースが少なくありません。

2.多くの買い手に見てもらえる

M&Aマッチングサイトには、社名を伏せて会社概要や財務状況を記したノンネームシートの一覧が表示されます。これを多くの買い手に見てもらえます。

3.成約までの時間を短縮できる

興味を持った買い手に直接コンタクトを取ってやり取りできます。

売り手も買い手も手軽に登録できることもあって、M&Aマッチングサイトが急速に普及したわけです。

ネットM&Aのデメリットは?

ただし、M&Aマッチングサイトはいいことばかりではありません。デメリットもあります。

1.自力で交渉しなければならない

マッチング自体は手軽ですが、自力で買い手と交渉しなければなりません。自社の売却交渉をしたことがない経営者にとって、これは容易なことではありません。M&Aマッチングサイトの多くにアドバイスサービスのオプションがあるのもこのためです。ただ、アドバイスサービスを利用したとしても、スキルが高く、信頼できる人に寄り添ってもらえるとは限りません。

2.情報漏洩のリスクがある

M&Aマッチングサイトには社名が伏せられて掲載されるといっても、事業内容や規模、立地などから、社員や関係者に「売りに出ているみたい」と勘づかれる可能性があります。そうなると、従業員が「うちの会社、ヤバいんじゃない?」と不安になったり、取引業者が「売りに出ているということは何か起こりそう」と取引を避けるようになったりする恐れがあります。

3.かえって時間がかかることもある

手軽に登録して買い手とダイレクトにやり取りできるといっても、専門家の力を借りずに交渉するのは難度が高い。スムーズに交渉が進まないケースも考えられます。また、買い手はM&Aマッチングサイトに掲載されている情報でコンタクトを取るかどうかを決めます。魅力的な見せ方をしなければ、買い手からまったく打診が来ないこともありえます。マッチングサイトに頼ることによって、かえって時間がかかってしまうことがあるのです。

M&Aマッチングサイトを使うなら、こうしたデメリットに留意するようにしましょう。

詳しくは過去記事『M&Aのマッチングサイトは使えるのか?メリットとデメリット、注意点を解説!』もご参照ください。

ネット業者の営業事情

「業界大手のM&Aマッチングサイトから『会社を売りませんか?』と営業をかけられたけど、売れると思いますか?」――地方の中小企業経営者から当社にそんな相談が舞い込むことがあります。

詳しく話を聞いてみると、M&Aが成約したときの手数料は良心的な水準でした。ただ、その中小企業には営業利益は数百万ですが、コロナ融資の借入が5千万円残っていました。経営者は「借金がかなり残っているけど、それでもいいですか?」と営業マンに質問したそうです。

しかし、営業マンは「うちは業界ナンバーワンですから」「赤字企業もたくさん掲載していますよ」とサイトへの掲載を営業するばかり。借金ごと売れるかどうかという質問は煙に巻かれてしまったそうです。

M&Aマッチングサイトには売り手企業の財務状況、資産や負債、純資産、売上、利益などが大まかに掲載されます。確かに、そこに「銀行借入〇千万円あり」とか「債務超過」と表示されている企業があります。

もしもあなたが買い手なら、わざわざ債務超過の企業を選ぶでしょうか? 見ず知らずの会社の借金を引き受けようと思うでしょうか? 
赤字企業がウェブサイトを使って独力で売却先を見つけるのは現実的には難しいと言わざるをえません。

しかし、現実的に考えると、債務超過の企業であれば、株価は1円で、株式を譲り受けるとともに借金を引き受けることになります。借金の額が事業を新規に立ち上げる時間と費用よりも割安と判断されれば、買う価値はあるかもしれません。こんな風に考える買い手が現れればM&Aとして成立します。こんなことはかなりレアケースでしょう。

そもそも、M&Aマッチングサイトに限らず、仲介会社を使っても、負債のある企業や赤字企業は簡単には売れません。赤字企業や債務超過のM&A案件は通常、再生専門のM&A業者や専門家でなければ、買い手:スポンサーを見つけ、弁護士や公認会計士などの専門家に協力いただき、私的整理や法的整理の上、借金を整理して、成約させることは難易度が高くなります。

まとめ

M&Aマッチングサイトは手軽に案件を掲載できたり、買う方も簡単に検索できるのが最大のメリットです。

ただし、金額が数百万円やせいぜい1千万円くらいで売却してもいいと思う、事業であれば、リーズナブルに手軽に売れる可能性のある、マッチングサイトは有効です。しかし、社員も取引先もあり、売上も億を超えて、譲渡対価も数千万を目指すのであれば、まずはM&A仲介業者や銀行、税理士に相談することをお勧めします。

M&Aマッチングサイトに掲載するなら、メリットとデメリットをよく検討した方がいいでしょう。

M&Aマッチングサイト自体も、オプションのアドバイザリーを推奨しているケースが多い。いずれにしても、M&Aでは信頼できるパートナー選びが成否を左右するのです。

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著者

小川 潤也

株式会社絆コーポレーション
代表取締役

1975年新潟県新潟市(旧巻町)生まれ。株式会社絆コーポレーション代表取締役社長。大学卒業後、株式会社富士銀行(現・みずほ銀行)入行。法人担当として融資、事業再生、M&Aなどの総合金融サービスを手がける。2004年、医療介護の人材サービスを手がける株式会社ケアスタッフの代表取締役に就任。また銀行勤務時代に培った新規取引先の開拓やM&Aでの経験を生かし、地方都市の後継者不在、事業承継ニーズに応えるべく、株式会社絆コーポレーションを設立。M&Aアドバイザリー事業、スペシャリストの人材紹介事業を展開。著書に『継がない子、残したい親のM&A戦略』(幻冬舎)がある。
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