本記事では、今、話題沸騰中のM&A案件を徹底解説します。
事例1:船井総研によるアルマ・クリエイション買収
株式会社船井総研ホールディングスは、アルマ・クリエイション株式会社の発行済み株式の100%を取得し、2025年1月6日付でグループ化すると発表しました。
アルマ・クリエイションといっても、ピンと来ないかもしれません。神田昌典氏といえば、ご存じの方も多いのではないでしょうか。
神田氏は、2012年にアマゾン年間ビジネス書売上ランキング第1位を獲得するなど、2000年代を代表するマーケターです。これまでの著書は100冊、400万部のベストセラー作家でもあります。
神田氏のカリスマ性を個人が承継するのはほぼ不可能。船井総研HDという総合力の高い企業に法人を売却してノウハウを後世に残そうと考えたのでしょう。
一方、船井総研HDは、以下の3点のシナジー効果を期待していると発表しています。
1.「次世代マーケティング実践会」を通じたノウハウの共有と顧客基盤の拡大
2.多様な人材育成による企業力の向上
3.コンサルタント育成の高度化
船井総研HDとアルマ・クリエイション双方にとってメリットがあるM&Aということです。
事例2:ソニーグループとKADOKAWAの資本提携
2024年11月19日午後、ソニーグループがKADOKAWA買収に向けた協議に入ったとロイター通信がスクープを飛ばしました。これを受けて、KADOKAWAの株価は2日連続のストップ高を記録。一時、46%も上昇したのです。
1カ月後の12月19日には、ソニーはKADOKAWAと戦略的な資本業務提携を交わしたと発表しました。ソニーがKADOKAWAの約10%の株式を保有する筆頭株主になるそうです。
ソニーはアニメ産業で圧倒的な存在感を築いてきました。ソニー・ミュージックエンタテインメント傘下のアニプレックスは「鬼滅の刃」など人気アニメをプロデュースしてきました。2021年8月には、クランチロールというアメリカのアニメ配信大手を1300億円で買収しています。これによって人気アニメを世界に届けるインフラを押さえました。
しかし、世界のソニーですら足りていない機能があります。それはIP(知的財産)をつくり出す力です。
ソニーはアニメの企画製作や配信では唯一無二の存在ですが、IPそのものを創出する力は強くありません。そこで、膨大な数のライトノベルやコミックのレーベルを持ち、IPを生み出す力のあるKADOKAWAの買収に乗り出したと考えられます。
ソニーはすでにKADOKAWAの株式を2.1%保有しているほか、ゲーム子会社にも出資するなど、関係を深めてきました。
ソニーとKADOKAWAの資本提携によって、業界の勢力図が大きく変わるともいわれています。
事例3:セブン&アイがカナダの企業から買収提案を受ける
セブン&アイ・ホールディングスは2024年8月、カナダのコンビニ大手アリマンタシォン・クシュタール(ACT)から約6兆円での買収提案を受けていると公表しました。
セブン&アイは「企業価値を著しく過小評価している」という理由で買収提案を拒否しました。すると、ACT社は9月に7兆円規模に買収提案額を引き上げました。セブン&アイの拒否が続けば、8兆円規模まで買収提案が続くとみられていました。
11月13日には創業家からMBOによる買収提案を受けたと発表しました。これは防衛策だと考えられます。
このMBOが実現すると、買収総額はACTからの買収提案と同規模以上、9兆円だといわれています。
M&Aで売却を成功させるポイント!
今回取り上げたアルマ・クリエイションやKADOKAWA、セブン&アイの3社に共通するのは、企業価値が高いこと。
アルマ・クリエイションは神田氏がこれまで集客してきた、中小企業の経営者の顧客基盤とコンテン、KADOKAWAはIPというほかにはない独自の商品・サービスを持っています。
セブン&アイは日本を代表する総合流通企業グループです。以前、海外企業からの買収となると、業績がパッとせず、株価が低い企業が狙われやすい傾向でした。ところが、ACT社のように「自分たちが経営したら、もっと業績を伸ばせる」と考えての買収提案が増えていくと予想されています。
自社の売却を成功させるためのポイントは、いかに価値を高めるかにかかっています。
まとめ
自社の売却を検討しているなら、「企業価値の向上」が欠かせません。価値がなければ、自分が思い描く金額での買い手は付きません。
とはいえ、企業価値を上げられるのであれば、とっくにやっているはずです。それができれば誰も苦労しません。急に独自の商品やサービスを生み出すことはできません。
そこで、売却前に必要になるのが「磨き上げ」という作業です。これは、買い手と交渉を始める前に、自社の問題や課題、強みを洗い出したり、解決したりする作業です。自社の強みを改めてあぶり出して、より高く会社を売却できるように準備するのです。
買い手にとって魅力的な企業かどうか、改めて自社を見つめ直してはいかがでしょうか。

小川 潤也
株式会社絆コーポレーション
代表取締役
