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M&Aでブレイクするポイントは?

[著]:小川 潤也

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M&Aは売り手と買い手が相応の準備をして、時間をかけて交渉を重ねていきます。

しかし、ディールを進めるなかで、突然ブレイク(破談)することも珍しくありません。

今回の記事では、売り手と買い手それぞれの視点でブレイクしやすいポイントを解説します。

ブレイクしやすい場面・買い手編

まずは、M&Aで買い手が原因となってブレイクするパターンを紹介します。

パターン①:基本合意後の値下げ交渉は不誠実

M&Aにおいて、買い手としてはできるだけ安く買いたいのが正直なところ。M&Aのブレイク要因として起こりうるのが、基本合意後に買い手が値下げ交渉を仕掛けるパターンです。

本来、基本合意時の金額を軸にDD(デュー・デリジェンス)が行われます。

しかし、買い手が基本合意時に決めた金額とはかけ離れた金額で交渉し始めることがあるのです。

そうなれば、売り手として心理的にマイナスイメージを抱くのは当然ですが、買い手は基本合意後の独占交渉権を得てから値切ればよいと考えている場合があります。

企業同士の交渉とはいえ、そこに介在するのは人と人です。感情面で嫌な思いをすれば、売りたくないと考えるのは自然な流れといえるでしょう。

パターン②:従業員を選り好みしてしまう

中小企業のM&Aでは、株式譲渡か事業譲渡どちらかの手法を選択されています。

そして、売り手にとって非常に気になる従業員の雇用契約の引き継がれ方は、株式譲渡か事業譲渡かで大きく異なるのです。

事業譲渡の場合、買い手は雇用契約をし直すことができるため、自社の雇用方針に合致しない、たとえば高齢の従業員を雇用したがらないケースが起こりえます。

売り手としては、従業員もそのまま引き継いで雇用し続けてほしいと考えるのが当然です。

雇用したくないという買い手の都合を優先すると、売り手からは「話が違う」とM&Aがブレイクする可能性があるのです。

パターン③:DDのときに「完璧」を求めて失敗

基本合意後に売り手企業の粗探しをすることも、ブレイクの要因となりえます。

通常、DDでは売り手の情報開示を受け、税理士が財務面、弁護士が法務面を調査したうえで最終的なM&Aの交渉が成立します。

一方、買い手としては売り手企業に完璧を求めがち。もちろんDDを行なう目的の一つが買い手にとってリスクになる情報を探ることにありますが、売り手としては指摘されてもどうしようもない、瑣末な部分まで粗探しをして有利に立とうとする買い手が存在するのも事実です。

売り手としては粗探しをされることで、心象が悪くなり、結果的に「そんな会社には売りたくない」という感情が優先されてブレイクしてしまうのです。

ブレイクしやすい場面・売り手編

続いて、M&Aで売り手が原因となってブレイクしてしまうパターンを紹介します。

パターン①:M&Aの途中で従業員が退職

M&Aはディール成立後、売り手企業の従業員がそのまま引き継がれます。

しかし、M&Aのディールが行なわれている最中に、従業員が退職してしまうケースがあるのです。

買い手としては、会社だけでなく、そこで働く従業員も引き継ぐことを前提にディールを進めています。そのため、従業員の退職がM&Aのブレイクの要因になることもあるのです。

パターン②:これまで開示していなかった情報が発覚

先に述べた通り、M&Aでは基本合意後にDDを行ないますが、そこで売り手が開示していない情報があり、それを買い手がDDを進める中で知ってしまい、ブレイクするケースがあります。

たとえば、買収した会社の建物に壊れている箇所があったり、水漏れなどこれから修理に多額のお金がかかることを意図的に黙っていたりする場合など。

このようなケースで売り手は表明保証(もし、虚偽や瑕疵があったとき売り手が責任をとることで、契約書にその範囲や金額が定めることが多いです)しており、譲渡後になんらかの瑕疵があった場合は保証する責任があります。

瑕疵はどんなに気をつけても、自社で把握できない可能性もあります。

そのため、売り手は表明保証保険という賠償責任を保険でカバーできるものに加入することで、もしもの時に備えることができるのです。

パートナーの存在も重要

M&Aのブレイクを防ぐには、交渉にあたるパートナーの存在も重要です。

M&Aはさまざまな仲介会社が増えています。営業成績を優先して、買収意欲の高くない買い手を紹介されるケースもあります。

M&Aは一度不成立となれば、売り手はもう一度進めるのは準備や時間の問題もあり、M&A自体をやめることも珍しくありません。

そこで、いかに誠意ある買い手と売り手を引き合わせられるか、もしブレイクしたとしてもすぐに買う気のある次の買い手候補を紹介できるかがパートナーの腕の見せ所となります。

まとめ

M&Aは中小企業も実行するようになり活性化していますが、全体の件数が増えれば増えるほど、ブレイクする数も自ずと増えていくでしょう。

買い手も売り手もM&Aを進める以上は、誠意をもって対応することがとても重要なのです。

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著者

小川 潤也

株式会社絆コーポレーション
代表取締役

1975年新潟県新潟市(旧巻町)生まれ。株式会社絆コーポレーション代表取締役社長。大学卒業後、株式会社富士銀行(現・みずほ銀行)入行。法人担当として融資、事業再生、M&Aなどの総合金融サービスを手がける。2004年、医療介護の人材サービスを手がける株式会社ケアスタッフの代表取締役に就任。また銀行勤務時代に培った新規取引先の開拓やM&Aでの経験を生かし、地方都市の後継者不在、事業承継ニーズに応えるべく、株式会社絆コーポレーションを設立。M&Aアドバイザリー事業、スペシャリストの人材紹介事業を展開。著書に『継がない子、残したい親のM&A戦略』(幻冬舎)がある。
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