ローカルM&Aマガジン

オーナー社長のための再生M&A入門その③業者選びと進め方

投稿日:2020年2月27日

[著]:小川 潤也

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ここまで、記事2回にわたって中小企業が事業を手放すことの周辺事情と、M&Aの基礎についてまとめてきました。

最後となる「その3」では、実際のM&Aの進め方について解説しましょう。

プロの協力は必須。「仲介」と「FA」という2種類のM&A業者

M&A業者の選び方

M&Aによる売却は、売り手企業と買い手企業が1対1で交渉して成約、というケースはほとんどありません。ほぼ必ず、プロのM&A業者が介在することになります。

M&A業者の種類は、「仲介」と「FA」の2つに大別されます。

仲介

売り手企業と買い手企業の双方と契約し、間に立って双方の条件をすり合わせる進行役が仲介業者。株式会社日本M&Aセンターが代表的です。

ビジネスモデルとしては、不動産売買の際に入る仲介業者のようなイメージを持ってもらえると近いでしょう。

仲介会社はM&Aの成約によって売り手と買い手の双方からフィーを得られるため、中立の立場であるというのが建前です。

しかし、逆にいうと売り手の側に立った親身なアドバイスが期待できない面も。着手金だけを取ってろくに動いてくれなかったり、とにかく成約数だけを稼ぐため粗雑な仕事をされたりといった、オーナー経営者の嘆きの声がしばしば聞かれます。

FA(ファイナンシャル・アドバイザー)

直訳すると財務助言業者ですが、M&AにおいてFAというと、売り手・買い手のいずれかに専属でつく、M&A全体のコンサルタントのことを指します。「アドバイザリー」や「M&Aコンサルタント」といったうたい方をしている会社はFA業者です。

売り手企業がFAを雇えば、売却価格をなるべく高くするため熱心に動いてくれます。

大手のFA業者はフィーが高額な場合が多いですが、小さくても実力がしっかりある業者や、地域密着型で実績を重ねてきた業者ならフィーは良心的でしょう。当社も新潟を中心に地域密着でM&AのFA業を行っていますが、大手に比べればかなりフィーは安価です。

中立的立場でなく専属アドバイザーですから、売り手企業に有利な条件を勝ち取れるよう奔走してくれるでしょう。

M&Aには公認会計士・税理士・弁護士などの協力が不可欠ですから、売り手の側に立って各方面のプロをまとめ上げたチームを組成してくれるのも心強いところです。当社も会社の再生や破産に強い士業の先生方と豊富なコネクションを持っており、必要に応じてチームで機動的にクライアントをサポートしています。

M&Aが成約に至るまでのプロセス

M&Aのプロセス

では、M&Aは実際にどのように進むのでしょうか。

売り手側の目線で簡単にまとめると、以下のようなステップがあります。

  • M&A業者への相談・契約締結
  • 資料の提供・ノンネームシートの作成
  • 買い手候補の選定・情報提示
  • ネームクリア
  • 秘密保持契約の締結・条件交渉
  • 基本合意書の締結
  • 買い手企業によるデューデリジェンス
  • 最終交渉
  • 契約締結

1. M&A業者への相談・契約締結

前述した仲介業者やFA業者に対し、M&Aを検討していることを相談します。

重要なのは、自社の状況について経営者が明確かつ詳細に説明できること。本記事の「その2」で述べたような各種書類で会社の経営を見える化しておくことが望ましいでしょう。その上でM&A業者と契約を締結すれば、M&Aのプロジェクトが具体的に動き出すことになります。

2.資料の提供・ノンネームシートの作成

売り手からM&A業者に会社についての資料を提供すると、M&A業者はノンネームシートを作成します。ノンネームシートとは売却候補企業の事業内容や売上高、従業員数等の基本情報をまとめたものです。

会社がM&Aを検討していることは非常に機密性の高い情報なので、ノンネームシートは売却候補企業の匿名性を絶対に保持するように作られます。

3.買い手候補の選定・情報提示

M&A業者がロングリスト(買い手候補企業20〜30社程度のリスト)、ショートリスト(ロングリストから候補企業を絞り込んだリスト)と呼ばれる買い手候補のリストを探し、売却先を絞り込んでいきます。

マッチングする可能性が高そうな企業にはM&A業者がノンネームシートを提供し、具体的な交渉の可否を探っていく流れです。

4.ネームクリア

ノンネームシートを提供し、買い手として現実的である企業が見つかれば、ネームクリアと呼ばれる手続きに進みます。この段階で匿名の情報提供は終わりです。自社についてのより詳細な情報を開示します。

買い手候補に自社を買いたいと思ってもらえるよう、実態の範囲内で最大限に自社の魅力を伝える資料作りが重要です。

買い手企業が交渉可能と判断すれば、実際に先方との面談に進むことになります。

5.秘密保持契約の締結・条件交渉

いよいよ、買い手企業との具体的な条件交渉です。
最初は経営者同士のトップ面談から始まるケースが多いでしょう。

売り手企業と買い手企業で何度も何度も面談を重ね、売却価格の交渉のみならず、M&Aのスキームや買収後の従業員の処遇から、双方の経営や組織に対する価値観などを徹底的に議論し、すり合わせます。

6.基本合意書の締結

売り手・買い手双方のすり合わせが概ね完了すると、買収価格や買収スキーム、今後のスケジュールなどを記載した基本合意書と機密保持契約書を締結します。

基本合意書はあくまでおおよその条件一致を意味するもので、ここでM&Aが確定するわけではありません。

7.買い手企業によるデューデリジェンス

基本合意に至ると、買い手企業が売り手企業に対してデューデリジェンス(デューデリ)と呼ばれる詳細な企業調査を行います。売り手にとってはあと一息と感じるかもしれませんが、デューデリの結果によってM&Aが破談になるケースもあります。

買い手企業への積極的な資料提供など、誠実な協力を心がけてください。

8.最終交渉

デューデリの結果、問題がなければ、実際にM&Aを実行するにあたっての詳細な条件を詰めていきます。

価格面だけなく売却代金の支払い時期やスキームや社長や従業員の処遇など、細かく合意していなければ後で思わぬ不利益を被るので、言うまでもなく非常に重要な交渉です。

9.契約締結

最終交渉で合意に至れば、すり合わせた条件に沿って最終契約を締結します。契約締結後は会社の引き渡しや登記の変更などの実際的な手続き(クロージングといいます)を済ませ、M&Aが完了します。

まとめ

M&A業者の種類や実際のM&Aの流れについてまとめましたが、なんとなくのイメージは掴めたでしょうか。

本記事は初めて売却を検討する経営者に向けてごく簡単にまとめており、多くの内容を端折っています。

金融機関の関わり方や買収のスキームによって実際に売り手企業がやることは異なってくるので、まずはM&A業者に相談し、自社の状況に踏まえた売却の流れをアドバイスしてもらうことが望ましいでしょう。

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著者

小川 潤也

株式会社絆コーポレーション
代表取締役

1975年新潟県新潟市(旧巻町)生まれ。株式会社絆コーポレーション代表取締役社長。大学卒業後、株式会社富士銀行(現・みずほ銀行)入行。法人担当として融資、事業再生、M&Aなどの総合金融サービスを手がける。2004年、医療介護の人材サービスを手がける株式会社ケアスタッフの代表取締役に就任。また銀行勤務時代に培った新規取引先の開拓やM&Aでの経験を生かし、地方都市の後継者不在、事業承継ニーズに応えるべく、株式会社絆コーポレーションを設立。M&Aアドバイザリー事業、スペシャリストの人材紹介事業を展開。著書に『継がない子、残したい親のM&A戦略』(幻冬舎)がある。
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