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ローカルM&Aマガジン

オーナー社長のための再生M&A入門その①会社を手放す方法

[著]:小川 潤也

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利益はなんとか上がっているが、借入金の元金返済にまでお金が回らず借金が減らない……。

金融機関に支払いをリスケしてもらうにも再建のメドが立たず、次のバンクミーティングが怖い……

会社を任せる適当な後継者もいないので、もう会社を手放して(やめて)しまいたい……。

多くのオーナー経営者が、このような深刻な悩みを抱えています。そのような経営者にぜひ知っておいてほしいのが、「M&A」という手法です。経営者個人がメリットを享受しながらスムーズに事業を手放すM&Aの手法について、3回に分けて解説していきましょう。

廃業・破産はオーナー経営者にとってデメリットが大きい

会社を廃業するリスク

会社を手放すための方法として「廃業」をまず思い浮かべる人もいるかもしれません。

しかし、安易に廃業を試みるのは考えものです。

ご存知のとおり、廃業とは自主的に事業をやめてしまうことで、会社が抱えている債務については資産の中ですべて弁済する必要があります。

会社にある預貯金と、不動産や設備などを売却した代金で債務をすべて返済し、そのうえで経営者のあなた自身に十分なキャッシュ(生活資金)が残るのであれば、廃業は選択肢になりえるでしょう。

中小企業庁の「中小企業実態基本調査(2016年)」によると、廃業を選択した小規模企業のうち半数以上が、資産と負債が同程度あるいは債務超過の状態です。債務超過であれば当然、会社の資産をすべて売り払ったとしても債務全額は弁済できません。

中小企業の場合は金融機関からの借り入れを経営者が個人保証している場合も多いでしょうから、そうすれば会社の資産から弁済しきれない債務を経営者の個人資産から返さなければいけなくなってしまいます。

払い切れない場合は金融機関に債務を減額してもらう他ありませんが、廃業による超過債務を金融機関に免除してもらうのは非常に困難です。

確かに廃業も選択肢の一つではあります。しかし、廃業するにしてもうまく借金を精算することが必須で、どのように廃業するのかのスキームを経営者自身で構築するのは困難です。プロから適切なアドバイスを受けることが必須でしょう。

破産で処理する場合についても、個人資産を食ってしまう点は同様です。会社の破産に伴って個人の破産も手続きすれば、経営者個人は債務を免れることができますが、もちろん個人資産はすべてなくなってしまいます。

少しとはいえ営業利益が出ている会社の経営者であるのにもかかわらず、事業を手放して一文無しになってしまうような結末は最悪です。破産という選択も、可能な限り避けるべきでしょう。

他に、私的整理という手法もあります。破産は裁判所の管轄下で倒産処理を行う法的整理ですが、私的整理は債務者と債権者の自主的協議により倒産処理を図る手続きです。

協議にあたっては銀行交渉に精通した弁護士の協力が不可欠で、借金を精算できるかどうかは交渉次第、ということになります。

事業を手放す最善の手段になりうる「M&A」

M&Aのメリット

廃業も破産も現実的に難しい……思い悩む経営者たちの救いの一手になりうるのが、M&Aです。中小企業庁の「2018年度版中小企業白書」によると、1985年に250件程度だったM&Aの成立件数は2018年には3850件まで増加しました。規模でいうと、中小企業がM&Aによる売却を成功させるケースが大きく増えています。

かつては「会社を売る」というと決して良いイメージではありませんでしたが、中小企業の後継者不足問題などを背景として、経営者が前向きに事業を手放す手段としてのM&Aが大きな注目を浴びるようになったのです。

M&Aの代表的なメリットは、「コストがかからず、むしろ経営者が売却益を得られる」「自分が退いても、事業と従業員の雇用を継続してもらえる」という2点。この2点だけを見ても、成功すれば廃業・破産に比べて経営者が圧倒的に大きなメリットを享受できることがわかるでしょう。

後継者不在の経営者が引退を考えるのであれば、やらない手はないといっても過言ではありません。

なお、M&Aには会社ごと売ってしまう「株式譲渡」と、事業だけを売る「事業譲渡」の2種類があります。株式譲渡方式だけでなく、自社の組織や事業を再編しながらキャッシュを得る手段としての「事業譲渡」も多くの企業に選択されているのです。

まとめ

会社を手放したい……そのような悩みを抱える経営者にとって、会社の廃業や破産はデメリットが非常に大きくなるケースが多く、可能な限り避けたい手法です。

ぜひとも、前向きなM&Aを検討しましょう。

本記事ではM&Aによる売却を解説するのに先立って、引退を望む経営者に向けて、会社を手放すのは決して簡単ではないことを解説しました。続く「オーナー社長のための再生M&A入門(その②)」では、M&Aによる売却が可能な会社の条件や注意すべきポイント、具体的な進め方について深掘りしていきます。

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著者

小川 潤也

株式会社絆コーポレーション
代表取締役

1975年新潟県新潟市(旧巻町)生まれ。株式会社絆コーポレーション代表取締役社長。大学卒業後、株式会社富士銀行(現・みずほ銀行)入行。法人担当として融資、事業再生、M&Aなどの総合金融サービスを手がける。2004年、医療介護の人材サービスを手がける株式会社ケアスタッフの代表取締役に就任。また銀行勤務時代に培った新規取引先の開拓やM&Aでの経験を生かし、地方都市の後継者不在、事業承継ニーズに応えるべく、株式会社絆コーポレーションを設立。M&Aアドバイザリー事業、スペシャリストの人材紹介事業を展開。著書に『継がない子、残したい親のM&A戦略』(幻冬舎)がある。
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