M&Aによる事業売却を検討する場合に経営者がやってしまいがちなのが、身近な知り合いに相談することです。
しかし、これは典型的な悪手。売却が成立しないばかりか、自社の崩壊を招く最悪の事態に発展する可能性もあるのです。本記事では、「知り合い頼み」の売却がいかに危険なのかをまとめました。
どんなに腹心でも社内の人間に絶対漏らしてはいけない
あなたの会社に信頼できる番頭がいるとしても、M&Aを検討していることは社内の人間に絶対に漏らしてはいけません。
自分の会社が売却される、となれば、従業員の側としては売却後に自分がどのような処遇を受けるかが最大の不安要素になります。あなたがどんなに番頭に「今まで頑張ってくれたお前の待遇は保証する」と熱心に伝えたとしても、従業員は必ず疑心暗鬼になります。そうなれば社内の誰かに打ち明けてしまって噂として広まる危険性が高まり、最悪はクーデターに発展することもあるのです。
買い手企業は売り手企業の社内の結束を重視します。買収した後に大量離職が起きれば大損してしまうからです。経営者が社内の人心掌握をできていない状態でM&Aが成約する可能性は非常に低くなりますから、従業員に不安を与えないためにM&Aの検討は内密に進めなくてはいけません。
通常、M&A案件において従業員発表は買い手企業との本契約締結の後になります。確定するまで絶対秘密にするのがM&Aの鉄則なのです。
取引先に相談すると自社が潰れる!?
中小企業の場合、取引先の社長や経営者仲間と深い関係を持っている経営者が多いものです。自社の売却を検討する場合、「あそこの会社なら買ってくれるかも」と思い当たる相手が出てくるかもしれません。
しかし、安易に経営者個人の人脈の中で売却を相談するのもやってはいけないことです。その理由として、まずは会社の規模の問題があります。
M&Aの買い手としては資金繰りに余裕があることが絶対条件で、売り上げは売り手企業の10倍以上はあることが望ましいでしょう。中小企業はどこも苦しい時代です。経営者個人の人脈で買い手を探しても、上記の条件を満たす優良企業の経営者はなかなか見つからないのではないでしょうか。もし売却が成立しても、後から買い手企業と共倒れになってしまっては元も子もありません。
また、社内に相談するパターンと同様に情報漏洩の危険があります。信用できる相手と思っていたとしても、相談相手がどこに情報を漏らすか完全にコントロールするのは不可能です。もし自社がM&Aを検討していることが広まれば信用不安に陥り、猶予してもらっていた売掛金の引き上げ騒ぎなどに発展する危険があります。知り合いに相談したことで、会社を売却できるどころか一気に倒産に向かってしまうこともあるのです。
「うちはM&Aコンサルもやっていますよ」素人業者に要注意
買い手候補として知り合いに相談するのと同様に、取引のある経営コンサルティング会社や不動産会社などが「うちはM&Aコンサルもやっていますよ」と自称するのを真に受けるのも危険なパターンです。
M&Aのコンサルは高い専門知識を有し、経験豊富な士業のプロと連携できる業者でなければ務まりません。中小企業のM&A需要が高まっていることを背景として多くの「兼業業者」が出てきていますが、残念ながら兼業業者がM&Aの正確な知識を持っているケースは稀有。守秘義務の概念すら持っていない業者も珍しくありません。必ず、M&Aの専門業者を自分で探して相談してください。
まとめ
M&Aの世界においては「有名案件に買い手はつかない」というのが原則。
売りに出ていることが広く知られているのに売却が成立していない案件は、「何かあるいわくつきの案件だ」と判断されてしまうためです。経営者が軽はずみに周囲に相談することで社内の不安や取引関係の混乱を招いてしまえば、買い手企業が見つかる可能性は非常に低くなってしまいます。
M&A交渉は社内外ともに、情報戦の側面が強くなります。経営者として会社の売却に不安を覚えるのは当然ですが、M&Aについては信頼できるプロの業者だけに相談窓口を絞るようにしましょう。
小川 潤也
株式会社絆コーポレーション
代表取締役