ローカルM&Aマガジン

赤字会社でもM&Aは可能! ――赤字企業を高く売るポイントと具体的な方法

投稿日:2024年11月25日

[著]:小川 潤也

Pocket

「利益が出ていない会社は売却できないだろう」と考える経営者は少なくありません。

しかし、実は赤字会社でも売却できる可能性も少しはあるのです。

本記事では、赤字会社を売却するポイントについて解説しましょう。

経営不振の企業を売ろうか悩んでいる経営者は、ぜひ参考にしてください。

赤字会社でもM&A は可能!

最初に、「赤字会社」の定義を見てみましょう。

赤字会社:財務上の損益計算上、利益がマイナスの状態になっている会社。ここでいう「利益」には、営業利益や経常利益、特別利益、当期利益(純損失)が挙げられる。
企業の事業収益力は営業利益を主にみます。そして、借入がある場合は支払い利息を控除する、経常利益を考慮します。

赤字の原因は企業によって多岐にわたりますが、「赤字の会社=価値が低い」とは一概にいえません。

たとえ赤字であっても、それまで培ってきたブランド力や製品、顧客の数、地域のシェア、取引先とのコネクション、独自のノウハウや技術力など、その会社の強みは必ずあるはずです。

その企業の将来性や独自の強みを適切に評価してくれる買い手なら、赤字であっても買ってくれる可能性はあるのです。もちろん、改善し、赤字から脱却できシナリヲオが描けることが前提です。

買い手から見た赤字会社買収のメリット

買い手企業から見て、赤字会社を買収するメリットとしては、次の3点が挙げられます。

1.節税効果
税務上の繰り越し損失がある企業を買収することで、法人税の負担を少なくすることができます。

赤字会社を吸収合併する場合は、売り手企業の繰越欠損金は買い手企業の繰越欠損金として引き継ぐことができ、繰越欠損金と利益を相殺することができます。一定の制限(みなし共同事業要件)がありますが、それでも節税効果は期待できます。

ただし、M&Aによって赤字会社の50%超の株主が変更となる場合、「買収から5年間は繰越欠損金はない」として法人税の計算を行うのが決まりです。買収から5年間が経過した後には、繰越欠損金を使って法人税計算を行うことが可能です。

2.事業を拡大できる
M&Aの大きなメリットのひとつが、ゼロから事業を立ち上げるのではなく、すでに立ち上がっている事業を取得できるという点です。

新規事業の立ち上げにかかるコストや技術開発の労力を削減でき、これまでにない販路を活用したり買収先の会社が持っていたブランド力や顧客、取引先などの無形資産を引き継げたりするのは、買い手企業にとっては大きな魅力です。

シナジー(相乗)効果が期待によってシェアの獲得や売上拡大、利益拡大が期待できます。

3.リーズナブルな価格で譲受けができる。
赤字会社であれば、譲渡対価を売り手が強気に交渉はできず、もちろん、のれん代はつきにくく、譲渡資産の対価で決まることがよくあります。その場合、通常のM&Aよりも安価に譲受けが可能となります。

赤字会社を高く売るポイント

それでは、赤字会社を売却するポイントを見てみましょう。具体的には、次の2つのポイントがあります。

1.買った会社のリソースを鑑みて赤字が改善できそうか
2.赤字であっても何らかの価値がある資産があり、それを使うことで収益が上がる見込みがあるか

1にせよ2にせよ、買い手企業が「自社がこの企業を買えば赤字が改善できる」と判断できるような価値が売り手企業に存在するか、ということです。特別な資産がなく赤字であればのれん代はつきませんが、とくに②に関連して、たとえば土地や建物、機械とかの有形資産で価値があるものがあれば、売却できる可能性は十分にあります。

借金があって赤字であれば、その借金を返していける見込みがないので売るのは難しいのですが、借金があっても銀行に免除してもらえれば、再生型M&Aのスキームで売れる可能性はあります。これについては次項で後述しましょう。

赤字会社売却で使われるM&Aの方法

赤字会社を売却するスキームとしては、次の3つがあります。

①株式譲渡を活用した方法

「株式譲渡」は中小企業M&Aや事業承継で使われることが多い手法で、企業の株式の所有権を移転させる方法です。

ただし、赤字会社の場合は負債が過大になっていることが多く、黒字企業と比べれば株式譲渡対価を求めることは難しくなる傾向にあります。

しかしながら、従業員、商品などのサービス、クライアント、会社の資産などすべて、そのまま引き継げるというメリットを享受できます。

赤字会社の場合、負債過大になっているかは状況によりますが、営業赤字が大きくのれん代がつかない場合は、負債を引き継ぐということで、その負債の金額が企業価値ということであれば株の値段は1円となり、それで株式譲渡となります。

つまり、その赤字会社に何らかの負債を引き継ぐ以上の価値を見いだせれば、買い手企業が売り手企業の借金を引き継ぐ代わりに、譲渡対価は実質1円となります。

②事業譲渡を使った方法

さらに事業譲渡というスキームもありますが、これは簡単にいえば「その企業のよい資産だけ買ってもらう」という方法となります。

企業が行っている事業の一部または全部を他の企業や個人に移転するスキームで、その事業に関連する資産や権利、負債、人員なども移転対象として含まれ、売手企業は譲渡対価を買い手から受け取ります。

特定の事業や資産を他の企業や個人に直接移転できるので、特定の事業のみを売却する際におすすめです。

ただし注意点としては、譲渡前までの流動資産(現金、預金、売掛金)や流動負債(買掛金、金融機関からの借入金)は引き継がないという点です。

この方法では、買い手企業が譲渡対象資産を吟味して、「これなら引き継ぐ」といったものに対して対価を支払うことになります。その場合、「売掛金や買掛金は除き、顧客と従業員と営業品目だけを対象にする」といったように、個別に契約内容を定めたうえで譲渡対象資産を決めていきます。負債が対象となる場合はほぼなく、その点には注意してください。

③再生型M&A

債務超過で、すでに金融機関からの借入の返済が滞っており、このままでは借入の返済が困難な場合、再生型M&Aのスキームをとることが多いです。このスキームは近年注目が高まっていますが、その対象となるのは、債務超過や経営利益が赤字、あるいは銀行借入れの返済が滞っているなど、業績不振の会社です。

再生型M&Aとは、債務超過などで企業再生の必要がある場合に、スポンサーに会社を引き継いでもらう際にM&Aを活用する手段です。買収することによって、買い手企業が売り手企業の経営を再建し、成長を促進することが目的とされます。

再生型M&Aには、次のメリットがあります。

・スポンサー企業からの援助を受けられる
・事業をつぶすことなく企業価値を持続させられる
・従業員の雇用維持や取引先の維持を図ることができる

ただし、再生型M&Aは難易度が高く、過去に再生型M&Aに成功した実績のある専門家のサポートを受けることをおすすめします。

赤字会社にとって、廃業とM&Aどちらがメリット高?

赤字になると廃業を検討する経営者もいますが、すべての企業が廃業を選べるとは限りません。

廃業できるかどうかは、自力で借金が返済できるかどうかがポイントとなります。金融機関からの借金が多額であり、それを自分で返済できないのであれば廃業することはできず、「破産」となります。

それをふまえたうえで、廃業とM&Aそれぞれのメリットとデメリットを見てみましょう。

まとめ

まとめると、赤字会社を売却するには、自社の強みを理解し、それを理解してくれる買い手を探すことが重要となります。

繰り返しますが、赤字会社だからといって決して売却できないわけではありません。

M&A仲介会社やアドバイザー、コンサルタントに相談しながら、ぜひ検討してみてください。

Pocket

著者

小川 潤也

株式会社絆コーポレーション
代表取締役

1975年新潟県新潟市(旧巻町)生まれ。株式会社絆コーポレーション代表取締役社長。大学卒業後、株式会社富士銀行(現・みずほ銀行)入行。法人担当として融資、事業再生、M&Aなどの総合金融サービスを手がける。2004年、医療介護の人材サービスを手がける株式会社ケアスタッフの代表取締役に就任。また銀行勤務時代に培った新規取引先の開拓やM&Aでの経験を生かし、地方都市の後継者不在、事業承継ニーズに応えるべく、株式会社絆コーポレーションを設立。M&Aアドバイザリー事業、スペシャリストの人材紹介事業を展開。著書に『継がない子、残したい親のM&A戦略』(幻冬舎)がある。
最新M&A情報を届ける 登録無料のメールマガジン 売買案件 体験談 最新コラム