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ローカルM&Aマガジン

ローカル中小企業のM&Aが、地域社会を活性化する――いまこそ求められる「サステナブルM&A」とは

[著]:小川 潤也

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いまや社会問題となった「後継者不足」。中小企業庁によれば、2025年までに70歳(平均引退年齢)を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人となり、うち約半数の127万が後継者未定と推定されました。これは、実に日本企業全体の1/3を占める数字で、地方ほどその傾向が顕著です。

現状を放置すると、廃業する中小企業と小規模事業者廃業によって、2025年までの累計で約650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われる可能性があるとされています。

この深刻な問題を解決するカギになるのが、「サステナブルM&A」という考え方です。本記事では、その意義を解説していきましょう。

「サステナブル」とM&Aの関係は?

「サステナブル」という言葉じたいは、近年のSDGsという概念の広まりとともに急速に知られるようになりましたから、耳馴染みがあると思います。

「持続可能性」「永続性」を指しますが、これがなぜM&Aに関係するのか?――売り手企業からすれば、会社を売ることで、自社が長きにわたって築き上げてきた価値を次世代に引き継ぐことができるでしょう。一方で買い手からすれば、新たな価値を取り入れることで、これまでとは違った方向に発展することができます。

つまりM&Aは、売り手企業と買い手企業の永続性を追求する究極の解といえるでしょう。

大手企業のM&Aと中小企業のM&Aは異なる

とくに地方では後継者難の企業が多く、私自身は新潟を本拠地としていますが、企業経営者からそうした相談を受けることが多々あります。

私は、「地方都市中小企業のM&A」を「ローカルM&A」と呼んでいますが、ローカルエリアの中小企業こそM&Aを行う意義があると考えています。

大手企業のM&Aの場合、株式の一部(持ち分法適法の範囲や連結対象の範囲)を取得することで経営に参画することや、100%取得し、子会社することで事業を拡大することなどがあり、必ずしも100%株式を承継しなくも目的によって、バリエーションがいろいろあるのが特徴です。

ローカルM&Aにおいては、ほとんどの場合、株式や事業をすべて売却することでその企業の資産、従業員、取引先などをすべて譲り渡します。

つまり買い手側から見れば、他の企業の株をすべて購入することで、その企業の実質的なオーナーとなり、経営権を手に入れることができます。それは売り手側から見れば、自分がオーナーであった企業の株式や事業をすべて売却することで、それまで自分が所有し、経営に関与していた企業を手放すことになります。

つまりローカルM&Aとは、まず何よりも企業経営の全権を買い手に委ね、その会社が永続を目指すことであるといえるでしょう。

売り手側の視点で考えると、おそらくは自分が長年精魂を傾けて経営してきた企業が自分のものではなくなるわけですから、経営者からすれば想像以上に重い経験になります。

M&Aの注意点は?――株式分散がもたらす大きなデメリット

コロナ融資の返済が始まると、中小企業はどうなる?

日本の企業の倒産件数は毎月500~600件あり、その多くが中小零細企業です。

倒産件数の推移を見ると、2010年代後半は毎月700~800件あった倒産件数が、2020年5月に288件と大きく落ち込み、以降は減少しているように見えます。これはおそらく新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、政府の給付金支給やコロナ融資が行われ、金融機関も返済猶予などの措置をとったことが理由にあたります。

しかし、2023年5月8日から新型コロナウイルス感染症は、インフルエンザと同じ5類感染症に移行しました。3年以上にわたったコロナ禍に終止符が打たれるわけですが、それと同時に政府がコロナ禍の中小企業を救済するために行ったゼロゼロ融資(実質無利子・無担保融資)も終わりを迎え、返済期限が迫ってきています。

おそらく2023年度からは、コロナ融資でなんとか延命してきたものの、業績を回復させることのできなかった多くの中小零細企業の倒産ラッシュが始まるであろうことは、容易に想像できます。

ローカル中小企業に内在する課題

ローカルM&Aは、そのような赤字続きで倒産寸前の会社を救うものではありません。

 M&Aが成立するには、売り手と買い手の双方が必要です。赤字続きで過大な借金もあり、資金繰りに苦労している、倒産寸前の企業の場合は、よほど営業基盤や魅力的な商品、サービスでもない限り、買い手が見つかることはありません。

一方で、負債はあっても営業利益が出ている企業であれば、M&Aの買い手が見つかる可能性はまだあります。例えば、黒字続きなのに設備投資の借金が大きすぎて返済が長期にわたっていて、それなのに社長が高齢となり、よい後継者も見つからず、将来に希望が見えないという会社です。もしくは本業はきちんと利益でているのに本業以外に投資したのが、裏目にでて、足を引っ張っているケースです。

このようなローカル中小企業こそ、M&Aによって救われるべき会社といえます。

企業を回すのは、ヒトとモノとカネです。M&Aによってヒトが交代し、新たな資本としてモノとカネが投入されれば、息を吹き返す中小企業はたくさんあります。

かつてはうまくいっていたやり方が、時代の変化によって通用しなくなるケースはたくさんあります。長い間にたまってしまった澱や凝り固まった考えが、企業に新風を吹かすことを阻んでいることもあるでしょう。

さらに、サラリーマンであれば定年を迎えて悠々自適の退職生活を送れるような年齢を超えて、会社経営からリタイアしたいと思いつつも、それができない経営者がいるとすれば、非常に気の毒なことです。よい後継者が見つからず、「自分が手を引けば会社がつぶれてしまう」との使命感から、引退できずにいるケースもあるでしょう。

これらの難題を解決するのが、ローカルM&Aなのです。

ローカルM&Aが企業と社会にもたらす好影響とは

繰り返しますが、ローカルM&Aでは株式や事業をすべて売却してその会社を手放すことになりますから、多くの経営者にとっては多少寂しさを感じるかもしれません。

しかし別の視点から見れば、会社が創業社長や創業家から離れたとしても、社会のなかで永続的に存続する可能性を探ることになります。

そして、会社は社会の資産であるという観点から見れば、すでに社会の一部として機能しているローカル中小企業を、廃業や倒産させることなく、地域のなかで活かしていく方法を見つけることになります。

このようなローカルM&Aこそ「サステナブルM&A」である、と私は考えていますが、売り手と買い手の両方にとって、そしてその会社が根ざす地域社会にとって、まさに「三方よし」となるようなM&Aが求められているといえるでしょう。

まとめ

M&Aとは、その企業の永続性を明確に示すことができる、ひとつの手段です。

すなわち、売り手企業にとっては「この会社に売れば、自社の価値が向上し、成長できる」という未来を示し、買い手企業にとっては「この会社を買うことで、自社の未来がこのように拓ける」というビジョンを描いてくれるものです。

 M&Aによって、地域社会が活性化し、日本社会・経済にも好影響がもたらされる――それこそが「サステナブルM&A」だと私は考えています。

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著者

小川 潤也

株式会社絆コーポレーション
代表取締役

1975年新潟県新潟市(旧巻町)生まれ。株式会社絆コーポレーション代表取締役社長。大学卒業後、株式会社富士銀行(現・みずほ銀行)入行。法人担当として融資、事業再生、M&Aなどの総合金融サービスを手がける。2004年、医療介護の人材サービスを手がける株式会社ケアスタッフの代表取締役に就任。また銀行勤務時代に培った新規取引先の開拓やM&Aでの経験を生かし、地方都市の後継者不在、事業承継ニーズに応えるべく、株式会社絆コーポレーションを設立。M&Aアドバイザリー事業、スペシャリストの人材紹介事業を展開。著書に『継がない子、残したい親のM&A戦略』(幻冬舎)がある。
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