ローカルM&Aマガジン

なぜ、ローカルM&Aが増えているのか ――今こそ求められる「M&Aの本質」とは

投稿日:2024年9月18日

[著]:小川 潤也

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国内のM&A件数は、1985年の年間約260件から2021年の年間約4300件と、公表されている件数だけでも36年で16倍以上となっています。

過去のM&Aと現在のM&Aの異なっている点は、M&Aを行う企業の規模。過去には大企業のみが行うと思われていたM&Aですが、近年は中小企業のM&A、とくにローカルエリアのM&Aが加速度的に増えているのです。

日本企業の発展や存続を思えば、M&Aが増加すること自体は、喜ばしいことですが、件数が増加した分M&A仲介業者は乱立し、一攫千金のサラリーマンが案件獲得に躍起になっているのを見ると「M&Aの本質」が忘れられていると感じることがあります。

今回の記事では、「M&Aの本質」について解説したいと思います。

M&A仲介業者としての役割とは?

M&A仲介の肝は、売り手と買い手のマッチングと調整力です。

私たちM&A仲介業者は、企業を売りたいというお客様、あるいは企業を買いたいというお客さまの意向を受けて、ごまんとある企業のなかからそれぞれに最適の相手を探し出します。

総務省と経済産業省が2022年に発表した経済センサス―活動調査の結果によれば、日本全国の企業数は約367万社です。5万どころか367万社のなかからマッチングするのですから、やみくもに営業をかけるわけにはいきません。

大手M&A仲介業者の強みは、それまでの長年の営業活動によって蓄積した候補企業のデータベースとネットワークです。大手は買い手が欲しいターゲットを多くデータにしており、担当者が把握しており、そのデータベースでマッチングできそうな候補が多数上がる案件であれば、成約まで進んでいくようです。

要は儲かっているいい会社、売上規模も10億以上などの中堅企業の良質会社であれば、買い手は多く手をあげるので、候補先の選定は容易です。難しいのは買い手のターゲットから外れている、中小企業です。即ち、データベースのターゲットに候補先がでてこない案件の場合、進行が滞りがちになります。

だから、多くのM&A仲介の大手もそこを辞めて独立した人たちが作ったM&Aブティックも「買い手のターゲットの中堅企業で手数料も多くもらえる会社」を探しに躍起になるのです。つなり、「ターゲットにはまる、売り案件」を探し出すことができれば、買い手候補は容易に複数社見つかり、その候補先が競って、買収金額が高くなれば手数料も数千万円を見込めます。そんな実態がDMや電話営業に拍車をかけているのが現状です。

しかし、M&A仲介業の本質は、「買い手のターゲットにある、良質で儲かっている会社を探すこと」ではなく、「ターゲットに入っていないけど、事業承継を求めている、中小企業の適材適所の一社の買い手をベストマッチできること」にあるのではないかと思います。

売り手企業の経営者と対話し、会社の価値、社風、従業員、エリアの特性を見極め、しかるのちにそこに合う買い手を探索する。この買い手の探索こそ、M&A仲介業者の力量が試されるところだと私は考えています。

M&Aでは、売り手と買い手どちらの企業も理解することが大切

M&Aにおいては、売り手と買い手の思惑が大きく異なることがままあります。一般的に、買い手は「特徴があり、儲かっている会社を適正価格、できれば安く買いたい」と考えるものです。要は、M&Aで買収することにより、投資した以上の価値を得たい。売り上げや利益がさらに拡大成長できる可能性を求めています。

よって、そこそこ利益があり、貸借対照表(BS)もきれいな状態であれば、すぐに買い手は見つかります。しかし実際には、商圏が地方都市の郊外であったり、事業規模が小さかったり、利益がマイナスであったり、借入金が多かったりなど、土地が社長の個人資産であったりいろいろな課題がある場合が多いのです。

つまり、売り手の魅力をいかに見つけるか、そして買い手を探し、その魅力が買い手の求めているシナジーとなるか、これを追求しつづけることにより、M&Aが成約に至るのです。

そこのニーズを買い手と売り手で早々を調整し、マッチングさせるのが、M&A仲介の本質だと私は考えています。

大手仲介会社の場合、自分たちの「顧客企業リスト」の中から買い手候補が現れなければ、この案件はペンディングとなるのですが、私たちは、その企業の魅力を見いだし、その魅力を求めてる、中堅、中小企業の買い手候補を探し続けることにしています。

ですから、私たちは売り手企業の魅力、ニーズに合わせて、買い手リストで手を上げるところがなくもて、買い手候補をあらゆる工夫、手段を講じて、探していき、M&A成立に向けて調整をしていきます。
そこから、売り手側にも買い手側にも不満が残らないように仕立てるのが、M&A仲介会社の腕の見せどころです。

財務諸表だけでは分からない企業の本当の魅力

M&Aとは、お互いに「たった一社に出合えればいい」ものです。しかし結婚と同じで、「本当にこの相手でよいのか」と迷いはじめると、なかなか決まらなくなるものでもあります。

そこで、仲介会社は売り手企業の中身を熟知するとともに、企業評価やスキームなどをアレンジして、買い手の希望に合うように仕立て上げる必要があります。このようなアナログなカスタマイズをいかにうまくできるかが、地方都市の中小企業M&Aの成否を分けます。

いまの時代、情報の受発信や拡散はたいへん簡単にできるようになりました。
しかし、ご存じのようにインターネットにすべての情報が載っているわけではありませんし、公開情報だけではわからないことはたくさんあります。

最近はインターネットでのM&Aマッチングサイトなども増えてきていますが、そこで見ることができるのはホームページや決算情報などのデータだけです。「決算書の数字だけをベースにM&Aをしましょう」でうまくいくのであれば、マッチングサイトを利用してもいいのですが、それだと「こんなはずじゃなかった」という不満が生じがちです。

もちろん、そこまで手間をかけなくてもディールが成立することはあるでしょう。儲かっている会社であったり、人気業種であったり、成長産業であったりすれば買い手はたくさん見つかりますし、そのなかから最も高い価格をつけてくれた相手を選ぶことは簡単です。

しかし「売るためにはどうすればいいか」というやり方と、「売ったのちにどうなりたいか」から逆算するやり方とでは、結果が大きく変わります。
特に、売り手の満足感が変わってきます。

中小企業のM&Aに必要なのは、ただ譲渡契約を結んでそれで終わりではなく、「売り手の価値を買い手に引き継ぐ」ことで、売り手と買い手の双方が成長発展するという意識です。

ただの取引ではなく、お互いが会社としてより発展するための契機になること――それこそがローカルM&Aの醍醐味といえます。

まとめ

繰り返しになりますが、M&Aの本質とは、売り手企業の魅力を理解し、買い手企業のシナジーとなるかを追求することだと考えています。

確かに、企業を発展させるためには仕組化は不可欠です。大手M&A仲介業者を批判するわけではありませんが、企業はさまざまな魅力を持った存在です。その多種多様な魅力を真に理解し、その企業と最大限にシナジーを発揮するたった1社を見つける。

そうしたM&Aの本質を忘れないでほしいと、私は思うのです。

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著者

小川 潤也

株式会社絆コーポレーション
代表取締役

1975年新潟県新潟市(旧巻町)生まれ。株式会社絆コーポレーション代表取締役社長。大学卒業後、株式会社富士銀行(現・みずほ銀行)入行。法人担当として融資、事業再生、M&Aなどの総合金融サービスを手がける。2004年、医療介護の人材サービスを手がける株式会社ケアスタッフの代表取締役に就任。また銀行勤務時代に培った新規取引先の開拓やM&Aでの経験を生かし、地方都市の後継者不在、事業承継ニーズに応えるべく、株式会社絆コーポレーションを設立。M&Aアドバイザリー事業、スペシャリストの人材紹介事業を展開。著書に『継がない子、残したい親のM&A戦略』(幻冬舎)がある。
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