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「事業再生」で倒産を回避し、企業を再生させる!――タイミングから要件、手法まで徹底解説

投稿日:2024年5月21日

[著]:小川 潤也

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不安要素の多い先行き不透明な時代では、ふとしたきっかけであっという間に経営状況が悪化することもあるでしょう。

経営者であれば、万が一のときのための武器として使える準備をしておく必要があります。

本記事では、経営の立て直しを図る「事業再生」とはなにか、そのタイミングや具体的な手法について解説しましょう。

「事業再生」とは?

倒産を回避し、会社を立ち直らせる

「事業再生」とは、経営状態が悪化し、業績の回復が困難な状況に陥った企業が「会社清算」という最終手段を取らずに、債務の一部免除や弁済期間の延長などを講じながら、スポンサーを探して、スポンサーの支援のもと、収益力や競争力のある事業の再建を図り、企業を立ち直らせることをいいます。

コロナ禍や戦争・紛争による世界経済の混乱、異常気象や自然災害によるさまざまな影響、物価高騰に極度の少子高齢化など、現代は先行きの見えない時代。

さまざまな要素によってどんな好調な会社でも一瞬で事態が一変し、経営が途端にうまくいかなくなる可能性もあります。

危機的状況に直面している企業はもちろん、現状ではその心配がない会社でも、もしもの事態に備え、事前対策として「事業再生」を知っておいても損はありません。

同じような言葉に「企業再生」がありますが、本質的な意味において両者に明確な違いはありません。

しばしば一緒に使われる言葉で、全体か部分かといった程度の使い分けになるので、特に気にする必要はありません。

事業再生のタイミングは?

「危険」の前の黄色信号が合図!

銀行でも倒産する世の中ですから、もはや大企業だからといって潰れる心配がないなどといったことは夢物語。

つまり、どんな企業でも倒産の危機を迎える可能性はあるわけですが、では「事業再生」を行う適切なタイミングとはいつなのでしょうか?

経営者として家族や従業員を路頭に迷わせるわけにはいかないと、ギリギリまで必死にがんばって対応したいところでしょう。

ただ、「事業再生」は黒字化の見込みがないと、そもそも検討できない事態にもなりかねません。

事業再生のタイミングとしては、資金繰りにまだ余裕がある段階で踏み出せるかがポイントになります。

具体的には、借入金の返済が滞ってきて、リスケ中であるとか、赤字決算が続き、債務超過になってしまったなどが該当するでしょう。

事業再生の条件は?

法的な条件はないが手法によって認可・前提・判断がある!

「事業再生」を適用、採用できるための条件はどのように規定されているのか? 実は、事業再生を行うための法で定められた条件などはありません。

ただし、事業再生の手法の多くは裁判所や調停委員会、スポンサー企業など第三者が関係しながら法律やガイドラインのもとで進められますので、「存続する価値の有無」といった判断材料、前提をクリアしているか、裁判所の認可などが必要になり、できる・できないを決められることがあるでしょう。

事業再生の手法は?

手法は大別して2種類ある!

では、実際に「事業再生」を選択するとして、具体的に経営者は何を、どうすればよいのでしょうか?
実際には経営者ご自身で判断することは難しいと思いますので、弁護士や専門家に相談の上で方向性を決めることになるのだと思います。

「事業再生」のやり方には大きく2つの方法があり、「法的再生」と「私的再生」です。

それぞれにまたいくつかの手続きが存在しますが、前者は文字通り法律の定めた方法によって、再生を進める手法で、後者は金融債権者と専門家が交渉して、私的に進める手続きです。

このように、両者はまったく違うアプローチになりますので、それぞれにメリット・デメリットを確認し、自社の状況がどちらに合っているか、再建できる可能性が高いのはどちらかの判断が必要です。

法的再生は、「民事再生」「会社更生」「特定調停」が主な手法となり、私的再生には「私的整理ガイドラインの活用」「中小企業活性化協議会への相談」「事業再生ADR制度の利用」があります。

法的再生とは?

適応する法律や主体者に違いがある!

「法的再生」とは、民事再生法などの法律をもとに、裁判所が関与しながら行われていきます。

この方法も「再建型」と「清算型」という2つの系統に区分されます。

両者の大きな違いは会社を存続させるかどうか。これは経営者の意志というより、基本的には利害関係者の利益の保護が一番の目的になるかと思います。

前者には「民事再生」「会社更生」「特定調停」、後者は「破産」「特別清算」という手続きがあります。

「破産」や「特別清算」は倒産とほとんど同義であり、事業再生という文脈からは少し外れますので、ここでは割愛します。

【民事再生】
民事再生法のもとに行われる裁判手続きになります。

裁判所の監督下となりますが、経営者が主体となって債権者などの利害関係者から同意を得ながら再建計画を進めていく手法です。

主に中小企業や個人事業主が実施します。

【会社更生】
こちらも裁判手続きのひとつですが、会社更生法に則って行われます。

裁判官が専任した「更生管財人」が具体的な手続きを進めていきます。

この手法の場合、基本的に経営陣の交代が求められるので、経営者が会社に残って手続きを進める民事再生とはこの点が大きく異なります。

【特定調停】
この手法は当該企業発信ではなく、債権者が裁判所に申し立てを行う手法です。

借入金などの処理に関し、簡易裁判所を通して「調停委員会」という特別な機関が仲介にあたり、両者が納得のいく債務の弁済方法を話し合っていく形になります。

私的再生とは?

私的とはいえ、第三者機関の助けを借りて進められる!

「私的再生」は、裁判を介することなく、会社と債権者などの当事者間で直接協議する方法になります。

法律による限定的な制限を受けないので個別の状況に応じた柔軟な方法で再建を目指すことが可能です。

ただし、法的再生より債権が回収しやすいと判断してもらえるか、裁判所の関与なしに公平性が保てるかといった点に問題があるため、債権者の協力が不可欠になります。

また、私的再生に欠かせないのが、弁護士、公認会計士、FAなどの専門家の協力です。それなりに費用はかかりますが、経営者が一人で頑張って成立するものではありませんので、専門家と一緒に協力しながら、進めていきましょう。

「私的再生」の方法は、前述の通り、「私的整理ガイドラインの活用」「中小企業活性化協議会への相談」「事業再生ADR制度の利用」などです。

【私的整理ガイドラインの活用】
「私的整理ガイドライン」とは全国銀行協会が発足した研究会によって定められた、法的続きによらずに債権・債務を処理するための指針になります。

令和4年3月に発表された「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」は近年、私的整理の現場ではよく利用されている手続きです。

私的整理がはじまると金融機関などの債権者による権利行使が一時的に停止される措置が取られます。

他方、一般の債権者に対する支払いや決済はその限りではないので、取引先などから「倒産危機」「経営が危ない」といったこと知られることなく済みます。

【中小企業活性化協議会への相談】
全国47都道府県にある、中小企業活性化協議会によって定められたルールによって、支援が行われていきます。

地域や業種においての制限は一切なく、すべての事業者を対象に事業再生を支援してくれますが、「有効な経営資源を有している」「過大な債務を負っている」「主要債権者との連名による申し込み」といった支援決定基準があるので注意しましょう。

また、資本金や出資額が5億を超え、従業員が1000人を超えるような大きな規模の事業者は対象から除外されます。

【事業再生ADR制度の利用】
こちらは「ADR」という経済産業大臣の認定を受けた公正・中立な第三者機関の協力を得て事業の再生を図る手法です。

早期の事業再生を支援するために、専門家が債権者と債務者の間に入って諸々の調整を行っていきます。

この制度では、債権者に対して放棄した債務の損失計上が法律で認められています。

また、債務者のほうも、債務免除によって発生する「免除益課税」が一定の条件を満たすことで支援措置が行われるなど、双方に税制上の配慮がなされます。

しかし、事業再生計画案を決議するために開かれる債権者会議において、一人でも同意しない債権者がいれば法的整理に移行するなど、厳しい面もあります。

再生型М&Aとは?

基本となるのは黒字と赤字の切り分け

前記事では、主に裁判所に委ねる「法的再生」と第三者機関を利用した「私的再生」を解説しましたが、これら債権者との債権カットのフォーマットを利用して、スポンサーに事業を引き受けてもらい、スポンサーのもとで事業を再生するM&A、それが「再生型М&A」です。

再生型М&Aには、主に以下の4つの方法があります。

【株式譲渡による再生方式】
再生を支援してくれる「スポンサー企業」を探し、その子会社となって再建を目指すやり方です。

これは債権カットを伴わず、資産、負債をそのまま引き受けてもらうことにより、再生を目指します。もろん、スポンサーが資金支援をして、資金繰りを維持したり、従業員の雇用を守ったりします。しかし、株式の譲渡対価は1円など、オーナーは借金の連帯保証人から外れるとするなどの条件が多くみられます。

【事業譲渡方式】
事業譲渡方式により、事業用資産と従業員をスポンサー企業に譲渡し、優良事業を中心に再生を行う手法で、事業譲渡で得た資金をもとに債務の返済に充当します。

事業を切り分けて譲渡できるので、中小企業の事業再生ではよく用いられるケースでもあります。

譲り受けた企業も、簿外債務のリスクを回避できるといったメリットがありますが、ほかの取引先との契約や許認可は取り直し、従業員とは新規雇用契約をしたり、資産の登記など手続きが煩雑になり、事務面での負担が多くなる点には注意が必要です。

【会社分割方式】
主に優良事業と不採算事業を分割して会社の再生を図るやり方で、前者を別会社に移転させることが一般的です。

不採算事業の分割会社は再建が難しいので、株式や資産を売却したうえで清算するケースが多いようです。

上記の「事業譲渡方式」に似ていますが、会社分割は権利・義務を包括的に受け継ぐ手法なので、許認可や免許の再取得などが必要のない場合もあり、手続きの面では比較的手間がかかりません。しかし、分割手続きに2か月程度時間がかかるので、注意が必要です。

【第二会社方式】
まったく新しい会社(第二会社)をスポンサーが設立し、そこへ事業再生を行う会社の優良事業を移すなど事業存続に必要な人材や資産を引き継ぎ、残った元の会社を不採算事業や負債とともに清算するやり方です。

債権者の同意が前提での第二会社へ優良事業を譲渡(吸収分割や事業譲渡)することで、負債を引き継がす、従業員の雇用も守れるというのが特徴です。

事業再生は?

事業再生の6つのステップ

「事業再生」にはいくつかの系統に分かれたさまざまな手法が存在するので、どれを選択するかによって細かな流れや手順は変化していきます。

しかし、「事業再生」という大きな括りでは、一定の手順に即した大まかな手続きの流れは変わりません。

一般的な「事業再生」のプロセスは以下のようになります。

事業再生においてはスピード感も成功するために必要となる重要なポイントなので、手続きを迅速に進められるように全体の流れを把握しましょう。

1.現状の確認と状況の把握
ひとくちに経営危機といっても、さまざまに事情が異なり、会社ごとにいくつものパターンがあるでしょう。

したがって、まずは会社の状況を把握することが必要です。

現在の状態を細部まで確認し、正確に実態を掴むことによって、どういう再建プランが適正なのかを考えることができるでしょう。

2.方針の決定
実態を把握したうえで、ではどのような手法を選択するのかを決定します。

財務内容、資金繰りの状況、銀行の借入残高など、資料を分析したうえで「事業再生」を検討していきます。

ここでは専門家によるアドバイスも有効になると思います。「法的再生」か「私的再生」かなど、高度に専門的な判断を迫れるはずです。

3.デューディリジェンスの実施
財務状況や事業内容などをもとに会社の価値とリスクを調査する必要があります。これを「デューディリジェンス」と言います。

日本語にすると「適正評価手続き」で、この調査によって資産や負債の実態や事業の収益性や特徴などが判明します。

またこの評価は、債権者や主に「再生型М&A」で必要となるスポンサー企業への自社資料としても活用できますので、重要な手順のひとつと言えます。

4.事業計画の作成
デューディリジェンスの結果をもとに事業計画案を作成します。

採算を見込める事業の選択、収益力の低い事業の整理、赤字部門の撤退、遊休資産の売却など収益改善のための方策を盛り込こんでいくような形です。

一般的に、事業計画は3〜5年くらいの期間を考慮した計画が必要になります。

5.資金の調達や支援・協力企業の確保
計画が定まったら、事業再生を行うための資金を確保しないといけません。

手法によっては多額の費用が発生する場合もありますし、債務免除しなくても再生できると判断されることもあるでしょう。

金融機関からの新たな融資が難しい場合には資金援助をしてくれる企業を探すことになります。

資金力のあるスポンサーや協力企業を多く集めることができれば滞りなく事業再生を行えますし、債権者や金融機関への信用も高まります。

6.事業再生の実行
債権者との同意とスポンサー企業からの支援が整ったとき、実際に再建への道を踏み出します。

事業再生のメリット・デメリットは?

再生を成功させるためのポイントにもなる!

ここで、「事業再生」を行ううえでの利点や注意しないといけないポイントを見ていきましょう。

それぞれの手法にどんなメリットあり、一方でどんなデメリットが潜んでいるのか、しっかり把握すれば成功する可能性も高まるはずです。

大枠として「事業再生」のメリットは、事業の継続(株主や経営者は変われど)と従業員の雇用が守られることの2点です。

そのために金融機関からの借入金の整理を中心に話が進んでいきますので、金融債権者の支援と新たに資金を出して、事業を担う、スポンサー企業が相互の協力することが不可欠です。

デメリットとしては、経営者が一人では何もできないことです。弁護士、公認会計士、不動産鑑定士、フィナンシャルアドバイザーが必要です。また、各種手続きや対外交渉といった面で時間とお金がかかります。その専門家に依頼するお金が用意できないと再生はできないのです。

「法的再生」と「私的再生」で見ていくと、前者は裁判所の介入により公平性が担保される代わり官報に掲載され、公となり、新聞に載るリスクも覚悟する必要があります。また、裁判所の決定により、債権者の同意も得られやすい状況を生み出すことができます。

その反面、手続きが多いうえに時間的に長引いたりする影響もあり、費用がかさみやすいと言えるでしょう。

「私的再生」の場合は、金融債権者と専門家による交渉が基本であり、再生の事実が公になることがないのがメリットです。そのため専門家(弁護士、公認会計士、フィナンシャルアドバイザー)の協力が不可欠であり、金融債権者が同意できるスポンサーの選定、譲渡対価を実現する交渉には事業を存続させる社会的意義が問われます。

利用できる支援制度は?

政策金融機関から融資を受けられる!

倒産や民事再生などには「自己責任」のイメージが強く付きまとう印象もあり、基本的には当該企業やその経営者がひとりでなんとかしろ、といった風潮を感じられるかもしれません。

しかし、「事業再生」には多くの支援制度が用意されており、さまざまに融資を受けられる仕組みが確立しています。

制度によって設定された一定の条件などがありますが、活用できるものは積極的に活用しましょう。ちなみに、記載したほとんどは日本政策金融公庫という政策系金融機関が行っています。

【再挑戦支援資金】
一度事業に失敗した経営者の再起を応援する制度で、長期の運転資金を融資してくれるものになっています。

新たに開業する人はもちろん、開業から7年以内でもその対象です。
参照:https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/04.html

【経営環境変化対応資金】
社会的・経済的環境の変化といった要因によって一時的に業績が悪化した企業を対象に、企業を維持するうえで緊急に必要な設備資金・経営基盤の強化を図るために必要な運転資金を融資してくれます。

参照:https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/07_keieisien_m_t.html

【企業活力強化資金】
企業の設備投資などを目的とした融資で、主に卸売業・小売業・飲食サービス業・サービス業といった業種を対象にしています。

ただ、「ご利用いただける方」の条件のなかには「取引先に対する支払い条件の改善に取り組む方」の文言もあるので、意外と広く支援を受けられる可能性もありそうです。
参照:https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/14_syougyousikin_m.html

まとめ

適切な対応で事業再生を成功させよう

「事業再生」を行う場合は、まず自社の状況把握が重要になります。

さまざまな手法がありますが、再生とは再生型M&Aのことだと思います。1.過大な債務を免除してもらう。2.適切なスポンサーに事業を引き継いでもらう。3.経営者の連帯保証債務は経営者保証ガイドラインに基づき処理する。企業再生はこの3つにつきます。そのためには企業再生に知見のある弁護士とスポンサー探しができるFA(フィナンシャルアドバイザー)のどちらかへ相談することが最適です。

ただ、倒産の危機にあるからといって悲観する必要はありません。

あきらめず、未来を切り開く経営者を私はFAとして応援したいです。

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著者

小川 潤也

株式会社絆コーポレーション
代表取締役

1975年新潟県新潟市(旧巻町)生まれ。株式会社絆コーポレーション代表取締役社長。大学卒業後、株式会社富士銀行(現・みずほ銀行)入行。法人担当として融資、事業再生、M&Aなどの総合金融サービスを手がける。2004年、医療介護の人材サービスを手がける株式会社ケアスタッフの代表取締役に就任。また銀行勤務時代に培った新規取引先の開拓やM&Aでの経験を生かし、地方都市の後継者不在、事業承継ニーズに応えるべく、株式会社絆コーポレーションを設立。M&Aアドバイザリー事業、スペシャリストの人材紹介事業を展開。著書に『継がない子、残したい親のM&A戦略』(幻冬舎)がある。
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