ローカルM&Aマガジン

「M&Aしよう!」という決意がスタート地点! ――最後までしっかり走り抜けることがM&A成功のカギ

投稿日:2022年1月25日

[著]:小川 潤也

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「M&Aすると決めたら、事業を拡大しないほうがいいですか?」――

当社がM&Aのアドバイザリー業務につくなかで、このような質問を受けるケースがよくあります。

そこで必ず答えるのは、「売却するまでしっかり拡大を続けたほうがいい」ということです。

本記事では、M&Aのディール中から売却の実施まで、自社をどのように経営すべきなのかの心がまえを解説します。

M&Aを決めた会社が陥りがちな状態とは?

まずは、M&Aによって会社を売却しようという意思を固めた社長が、陥ってしまいがちな状態について解説します。

半分「上がり」モードになって損をする

よくあるのが、M&Aを決意して買い手探しに入った時点で経営に身が入らなくなり、事業の拡大を止めてしまうケース。

しかし、M&Aを決めたからといって会社を成長させる努力を怠ってしまうと、後から足をすくわれるケースが多いのです。

代表的なのは、M&A交渉の間に現状維持モードに入り、業績が悪化してしまい、当初の予定よりも実際の売値が大幅に落ちてしまうパターンです。

売り手企業の経営者は、M&Aによる譲渡代金を引退後の生活のあてにしている場合が多いですから、収入が大きく目減りするとその後の人生計画が狂ってしまうことになります。

業績が落ち込んだ状態で引き継がれると買い手も大変

さらに、買い手企業の視点に立って考えてみましょう。

業績が下り坂基調の会社を引き継いだ買い手企業は非常に大変で、買収後にまず事業再生から始まるような状態では、M&Aによるシナジーは当分望めません。

くわえて、売り手企業に残った幹部や従業員も、結局は業績の立て直しによって苦労することになります。もし、立て直しがうまくいかずに再度M&Aされたり解体されたりする結果になれば、幹部や従業員が路頭に迷ってしまうかもしれないのです。

なぜ、拡大を止めてしまうのか?

このように、M&Aの準備を進めるなかで業績が下り坂になってしまうと、関係者全員が損害を被るリスクが高くなります。

それでは、そもそもなぜ売り手企業の経営者の多くは、M&Aを決めると現状維持モードに陥ってしまうのでしょうか?

最も大きな理由は、現状維持を目指すからです。現状の業績を維持するためにの欠員補充はしますが、業績を拡大するための人材の採用や新規営業での取引先の拡大、サービスの改善、新サービスの提案、など業績向上に欠かせない施策を「次のオーナーの仕事」と捉えてしまうことです。

社長を今後も続けようと考えているうちは、リスクのある施策も果敢に決断していた経営者が、「後任が控えている」という意識になったとたんに及び腰になってしまうようです。

多額の資金調達を伴う、設備投資などを控えるのは当然ですが、資金調達なしでできるものは積極的に取り組むべきです。

最後まで事業の成長拡大を続けるためには

それでは、M&Aを決めた後も気持ちを緩めず、最良の形で承継を実現するために、売り手側の経営者はなにを心がければいいのでしょうか?

事業計画は最後まで立てよう!

まず大事なのは、それまでの経営のなかで作成していたであろう事業計画を、M&Aを決断した後も手間をかけ、取り組んでいくことです。

M&Aによって実際に事業を譲渡する際の業績目標を定め、目標を達成するよう進捗管理をすれば、M&Aの交渉中に業績が下降線をたどるリスクは軽減できます。

毎月の売上も当然しっかりチェックし、売上に陰りが見られれば、これまでどおり策を講じてください。

 財務諸表をていねいにつくろう! 

財務諸表についても、経営者としてのゴールが見えてしまうと気にしなくなる経営者が少なくありません。

気にしなくなるというのはこれまで、ちょっと危ないなと感じていたリスク、たとえば、回収できないかもしれない売掛金、イレギュラーな取引で残っている未収入金、取引先への仮払金、不良在庫、などです。これらを綺麗に整理することが譲渡する経営者の最後の仕事です。

自分が社長のうちはなんとかなってきましたが、引き継ぐとなると負の遺産ははっきりとマイナス評価されてしまいます。

だから、経営者として財務諸表とはきっちりと丁寧に向き合いましょう。

 まとめ 

社長交代が見えて気が抜けてしまうのか、それともラストスパートをきっちりやり切るのか。

ここで経営者としての最後の器が測られるといっても過言ではありません。

自分にとっても後継社長にとっても最良のM&Aになるよう、事業譲渡の日まで全力で経営に取り組んでください。

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著者

小川 潤也

株式会社絆コーポレーション
代表取締役

1975年新潟県新潟市(旧巻町)生まれ。株式会社絆コーポレーション代表取締役社長。大学卒業後、株式会社富士銀行(現・みずほ銀行)入行。法人担当として融資、事業再生、M&Aなどの総合金融サービスを手がける。2004年、医療介護の人材サービスを手がける株式会社ケアスタッフの代表取締役に就任。また銀行勤務時代に培った新規取引先の開拓やM&Aでの経験を生かし、地方都市の後継者不在、事業承継ニーズに応えるべく、株式会社絆コーポレーションを設立。M&Aアドバイザリー事業、スペシャリストの人材紹介事業を展開。著書に『継がない子、残したい親のM&A戦略』(幻冬舎)がある。
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