ジャパネットたかたは2015年、創業者である高田明社長から息子の高田旭人氏へと経営の引き継ぎを行っています。高田明前社長は自らセールスマンとして通販番組に出演し、ジャパネットたかたを大企業へと導いた立志伝中の人。当然ながら社内における影響力は絶大で、旭人氏への事業承継の行く末を多くの人が注目していました。
蓋を開けてみれば、同社は事業承継後に右肩上がりで業績を伸ばしています。ジャパネットたかたの事例から、成功する事業承継のエッセンスを見てみましょう。
前社長の反対を押し切った販売プラン
旭人氏は副社長時代、「チャレンジデー」という企画を考えました。チャレンジデーとは、一日だけ一つの商品を、テレビやラジオ、ネットなどすべてのチャネルで徹底的に売り込む、という取り組みです。
明社長は当初、チャレンジデー企画に猛烈に反対したといいます。しかし旭人氏は、従業員のモチベーションも非常に高い企画であるとして、父親の反対を押し切ります。
結果、チャレンジデーは大成功。明社長も大喜びで、プロジェクト成功の打ち上げの場では誰よりも楽しんでいたといいます。
その後も、旭人氏は社長として改革を続けていきます。
売り込む商品の比率の変更、衣食住や健康食品など新たな商品ジャンルへの乗り出し……旭人氏は、前社長の方針にとらわれることない大胆な改革案を次々と実行し、ジャパネットたかたは今日の躍進に至ったのです。
象徴的なのは、今までは明氏自身がセールスマンとしてメディアに出演していたのを、旭人氏は自らが出演しない方針を貫いたこと。社長は経営に徹して、現場は従業員に任せるスタイルへの大きな転換として話題になりました。
前社長は会長として残らずに完全に引退
また、事業承継に際して前社長の明氏は、会長として会社に残らず完全に引退しています。
明氏は旭人氏に「自分が残っては経営がやりづらいだろう」「従業員も迷うだろう」といったような言葉を告げたといいます。
そして実際、すっぱりと引退を実行に移したのです。
立つ鳥跡を濁さずで、事業承継後は完全に会社から退く……事業承継の理想型ではあっても、なかなか実行に移せるものではありません。
前社長の目から見れば、新人経営者である後継社長の行動などツッコミどころだらけで当たり前だからです。後継社長の未熟さという以上に、経営スタイルが違えば前社長はどうしても口を挟みたくなります。
ジャパネットたかたの場合、後継社長の旭人氏が承継前からその有能さを発揮して数々の実績を出しており、前社長の明氏も安心して任せられた、ということはあるかもしれません。
しかし、だからと言って、並の経営者であればやはり、「承継後も一応は会社に残って様子を見る」などと言って会社に残り、悪い場合は承継後に後継社長へ口出しして社内を混乱させてしまうものです。
逆に、経営者として類まれなる実績を挙げた人であるほど、引退後も口出しすることを我慢できないケースが多いようです。
ジャパネットたかたも承継前の数年間は、明氏と旭人氏との間で激しい意見のぶつかり合いが続いていたといいます。それでも承継時、明氏はすっぱりと身を引きました。これは明氏の冷静で客観的な状況判断力と、勇気の証です。前任社長の引き際としては、理想的なケースだと言えるでしょう。
ちなみに明氏は引退後に新法人の立ち上げやサッカーチームの経営など、新たなチャレンジに乗り出しています。1948年生まれ、2020年10月末時点で71歳の明社長のバイタリティは、底知れません。
まとめ
ジャパネットたかたの事例から見る「勝ち組事業承継」。
成功のポイントは、前社長がだらだら会社に残らずすっぱり引退したことと、後継社長が熱意を持って会社の改革に積極的に取り組んだことでしょう。
多くの会社は、前社長が引退後も会社に関わりたがったり、後継社長が自信のなさから現状維持路線に走ったりして事業承継に失敗してしまうものです。
継ぐ側も継がれる側も大胆な決断を実行に移すことができたジャパネットたかたの、今日の成功は必然と言っていいでしょう。
今後も同社の発展から目を離せません。
小川 潤也
株式会社絆コーポレーション
代表取締役