ローカルM&Aマガジン

「M&Aは、“売って終わり”ではない」――「社員とお客さまの安心」を最優先で追求し・実現したM&A成功体験談!

投稿日:2025年3月17日

[著]:小川 潤也

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新潟県長岡市で最新のテクノロジーを追求し、その技術と高度なアプリケーションノウハウを提供してきたエリシアシステム。同社の代表取締役・細貝裕様は自身が引退後の社員と、サポートが必要になるユーザーの未来を案じてM&Aを決断されました。「安心して株式譲渡ができた」という経緯をうかがいました。

きっかけは、人材不足の懸念

−−−−株式譲渡を終わりまして3週間ほど経ちましたが、今の率直なお気持ちをお聞かせください。

これまでは、私自身はもちろん社員も不安な状態が続いていました。実は数年前から、お客さまから「社長がいなくなったらエリシアシステムはどうなるんだ」などとことあるごとに言われていたのです。そこで事業を引き継げる先を探していたのですが、自分たちだけでは見つけることもできませんでした。だから、運送を中心に60社ほどやっている磐栄ホールディングスさんのIT部門に譲渡を完了できて、ほっとしています。

−−−−事業承継を考えたのはいつごろで、どんなことがきっかけだったのでしょうか?

来年、はじめて社員の中で退職者が出ます。中途採用をあまりしていなかったので平均年齢が50歳を超えてしまい、このままいったら10年後の会社がなくなるという状況でした。

単純に下請けとしてプログラムやシステムをつくっている会社だったら、廃業してもよかったのですが、我々の場合は直接お客さまと仕事をしており、ユーザーサポートが大きなポイントです。そのため、お客さまに対して「会社がなくなったからもう終わりですよ」とは、とても言えません。

だから、当社の仕事を引き継いでくれる、もしくは一緒になって考えてくれるところを探しておかないと、私も安心して引退できない。結構前から探していましたね。

−−−−何年前から探していたのでしょうか?

10年くらい前からです。そのころから、会社の未来像として、今いるメンバーだけでずっとやり続けられないことはわかっていました。かといって上手にお客さんを減らすこともできない。そうなると、お客さまがいるにもかかわらず、サポートできる人がいなくなるタイミングが訪れます。

銀行からの紹介で出会った絆コーポレーション

−−−絆コーポレーションに依頼した経緯を教えてください。

銀行の担当者に相談して、「M&Aに強い会社がありますよ」と絆コーポレーションさんと出会いました。その頃はM&Aのダイレクトメール(DM)が頻繁に届くようになっていて、ちょうど良いタイミングでした。

−−−たくさんのDMが届くなかで、なぜ絆コーポレーションに決めたのでしょうか?

本当にいろいろとよくやってくれたのが決め手ですね。本来、事務的な部分はこちらがやらなければいけないのですが、その面でもいろいろとサポートしてくれて、資料を用意してもらったりして助かりました。経理周りのことはわかっていたし、株式譲渡などは若干知識があるにしても基本的には素人だったので、手続きや契約面を含めてサポートしていただきました。

それに、絆コーポレーションさんは異業種との繋がりを持たれているので磐栄ホールディングスさんに辿り着くことができたと思っています。

−−−M&Aで苦労された点は?

絆コーポレーションさんと出会う前のことですが、紹介してもらった会社に対して私のほうで乗り気になれなかったり、逆に話を進めたいところに興味を示してもらなかったりと、話が煮詰まってなかなか進まなかったことです。ただ、私としては「3年くらいかけて事業承継できればいいかな」と考えていたので、そんな局面になっても正直、焦ってはいませんでした。絆コーポレーションさんと出会ってちゃんと煮詰めていればもうちょっと早くスムーズに進んだだろうと思いますが……。

また、磐栄ホールディングスさんに手を挙げていただいてからも、その一員になったときにうちの会社がどういう役割をするかのイメージがわかなかったので、二の足を踏んでいた部分もありました。

−−−買い手選びにおいては、慎重にかつ熟考されたうえで、1社1社を吟味されていたと思います。そのなかで、「ここだけは譲れない」というポイントは何だったのでしょうか?

「お客さまのシステムをサポートする」という私たちの事業の強みを重要視してくれるかどうかです。だから、単純に技術者を吸収するだけのM&Aは避けたかったし、当社が持っていたユーザーを簡単に切ってもいいという感覚を持つ会社とは、絶対にお付き合いをしたくなかったですね。

M&Aを進める上での注意点

−−−残る社員にもっとも気を遣った点は、どんなところでしょうか?

社員に対しては、「M&Aをしても、現状の仕組みが変わるわけではない」「当面は私も残る」ということをしっかり話しました。さらに、「これから何年かの間でやるべきことは基本的に変わらないが、グループのメンバーとしてやるべきことがある」と明確に伝えました。

ただ、これだけだと社員がどこまで理解しているかわからない。そのため、磐栄ホールディングスさんと当社の位置付け、役割、今いるメンバーがどこでどういうような仕事をしていくかを丁寧に説明しました。

−−−社員さんはすんなり受け入れてくれたそうですね。

はい。そして社員が定年になるまでの長いスパンの中でどうやっていくかを本人たちと話し合いました。彼らも生活があるわけですから、安心させてあげないといけません。会社が変わった瞬間にとんでもない仕事をさせられて退職なんてことになっても、年齢が50〜60歳近くになって新たに職場を探すのは不可能です。そうならないように、私がいる間は道をしっかりつくってあげないといけません。

「売れたら終わり」ではなく、その先を見据える

−−−M&Aを検討している経営者さんにアドバイスはありますか?

「しておけばよかった」と思うのは、人材雇用です。もっと計画的に雇用して人材教育をしていればこういう話にならなかったわけですから、本来ならもっと力を入れるべきだったかもしれません。ただ、それぞれの会社で事情がありますし、私の場合は人を増やして事業を拡大するつもりがありませんでした。

逆に「しておいてよかった」と思ったのは、買い手にこちらの意志やスタンスをしっかりご理解いただいたことです。M&Aは、「売って終わり」ではありません。それは売り手として一番大事なことだと考えています。

買う側としては、単純に「資産をいっぱい持っている」「決算書の数字で利益が出続けている」だけでは「良い会社」と判断しないと思います。やはり、その会社にいる社員や、会社の顔である社長などの人間性を重視したうえで、「買う」という決断をしているはずです。だからM&Aは、「売れたら終わり」ではなく、「引き継いだ後に、どれだけ協力できるかを考えています」という意志表示やスタンスを見せていかないと、良い買い手とはご縁がないだろうと考えています。

−−−2〜3年後をめどに引退されるかと思いますが、そのときにやりたいことはありますか?

これまでは本当に休みもなくずっと働いていたものですから、ゆっくり過ごしたいですね。ただ、働かなければならなくなったときには、これまでの経験や知見を活かし、外注のシステムエンジニアとして設計やコンサル業務的な部分をお手伝いさせてもらえればいいかなと思っています。

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著者

小川 潤也

株式会社絆コーポレーション
代表取締役

1975年新潟県新潟市(旧巻町)生まれ。株式会社絆コーポレーション代表取締役社長。大学卒業後、株式会社富士銀行(現・みずほ銀行)入行。法人担当として融資、事業再生、M&Aなどの総合金融サービスを手がける。2004年、医療介護の人材サービスを手がける株式会社ケアスタッフの代表取締役に就任。また銀行勤務時代に培った新規取引先の開拓やM&Aでの経験を生かし、地方都市の後継者不在、事業承継ニーズに応えるべく、株式会社絆コーポレーションを設立。M&Aアドバイザリー事業、スペシャリストの人材紹介事業を展開。著書に『継がない子、残したい親のM&A戦略』(幻冬舎)がある。
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