ローカルM&Aマガジン

親族内承継を成功させる経営者の条件と「任せ方」の流儀

投稿日:2020年12月1日

[著]:小川 潤也

Pocket

近年ではすっかり減った、子どもや兄弟に事業を引き継ぐ親族内承継。

継ぐ側にも継がせる側にもさまざまな事情があり、時代背景も変化していますが、現代でも本音では親族に会社を引き継いでほしいと考える経営者は多くいます。

スムーズに親族内承継を成功させる経営者の条件と、うまく事業を引き継がせるコツを解説します。

事業承継は子どもの幼少期から始まっている

最近特に増えているのが、子どもの側が親の会社を「継ぎたくない」と考えるケース。そうなってしまう大きな原因は、子どもが幼少期から見てきた親の背中です。

中小企業の経営は大変な仕事です。

また、サラリーマンに比べると仕事と日常生活という公私の区別がなくなるため、経営者は家に帰っても自分の会社の話ばかりになりがちです。そして、多くの経営者が犯してしまう過ちは、家で父親と母親の会話は常に対会社のことばかりということ。

私の家も父がビルメン会社を経営して、母も手伝っていたので、食卓の話題は会社の相談ばかりでした。従業員との関係についての悩み、売上が増えた、減ったとか、あの取引先と新規契約できたとか、賞与はどうするとか、業績の不安、……そんな会社のことを家で話していれば、子どもが幼い頃から経営者とはこういうものだとOJTを受けているようなものです。

それが英才教育となり、「自分も経営者になりたい」と思うか、反面教師となり、「経営者は大変だから、サラリーマンになりたい」とは思うかは人それぞれでしょう。

たとえ口に出さなくても、子どもは敏感です。

事業がうまくいき、儲かり、父の羽振りがよくなれば、頼もしく見えるでしょうし、うまくいっていないときは露骨に不機嫌、という父親の姿を見ていれば、子どもとしては経営者という仕事自体に悪いイメージを持ってしまうかもしれません。

親のあいまいな態度でタイミングを逃す

また、本音では子どもに会社を継いでほしいと思っていながら、親の側から子どもにハッキリ意思を告げずに時間ばかり過ぎていってしまうケースも散見されます。

親が会社を経営していれば、子どもの側もいずれ自分が継ぐという選択肢があることはわかっています。

ただ、親から「将来はお前に会社を継いでほしい」と明言されない限り、子どもが自分から承継の意思を示すことはあまり考えられません。地方出身であれば、せっかく東京で就職しても会社を継げばずっと地元に戻って暮らすことになりますし、経営者が大変な仕事であることはわかり切っているからです。親の意思表示なしに自分から踏み切れないのは当然でしょう。

結果、子どもは東京の大学に行き、東京の会社に就職し、結婚して子どもを設け……と、人生のステップを登っていきます。そこで急に親が年老いて経営を続ける体力がなくなり、子どもに「継いでほしい」と頼んでも、子ども側にも都合があります。子どもの配偶者から理解を得られない、「嫁ブロック」の阻まれるケースもあるでしょう。

そうして時期を逸したことで親族内承継ができなくなってしまうパターンは、非常に多いのです。

子どもに会社を継いでほしいという意志があるのならば、遅くても子どもが大学卒業後の進路を決めるまでには、はっきり伝えておくようにしましょう。何となく察してくれているだろう、という考えを持つのは禁物です。

お金も含めて任せきる勇気を

さて、親族内承継が無事に実現し、子どもが後継社長になったとしましょう。

一番に意識するべきは、お金の管理も含めてすべてを任せ切ることです。こと経営については、やってみなければわからないことが大半だからです。

よくあるのが、「うちの子はまだ力不足だから」といって親が承継後も実権を手放さず、そのまま長期間、後継社長が飼い殺しのような状態になってしまうケース。これでは、決心して後継社長になってくれた子どもがかわいそうです。

子どもが大学卒業後にすぐ親の会社に入ってくれた場合でも、長くともせいぜい10年程度で事業引き継ぎを完了させるようにしてください。基本は5ケ年計画くらいが理想です。

親族内承継では、子どもが自分の意思で新規事業を始めて成功するぐらい、子どもの主体性を重んじることが大事なのです。

まとめ

冒頭で述べたとおり近年はめっきり親族内承継が減り、M&Aなどによって子どもに資産を残すことで出口を見つけるオーナー経営者が増えました。

しかし、もし子どもに会社を継いでほしいというつもりがあるのなら、早い段階で準備を始めるべきです。

一人で考えるのが難しければ、地元の商工会議所が開く事業引き継ぎ支援センターや事業承継士協会、中小企業診断士やコンサルタントからサポートを受けるのも一案でしょう。無料相談が可能な窓口もあります。

子どもが幼少期のときから事業承継は始まっている、と心得てください。

Pocket

著者

小川 潤也

株式会社絆コーポレーション
代表取締役

1975年新潟県新潟市(旧巻町)生まれ。株式会社絆コーポレーション代表取締役社長。大学卒業後、株式会社富士銀行(現・みずほ銀行)入行。法人担当として融資、事業再生、M&Aなどの総合金融サービスを手がける。2004年、医療介護の人材サービスを手がける株式会社ケアスタッフの代表取締役に就任。また銀行勤務時代に培った新規取引先の開拓やM&Aでの経験を生かし、地方都市の後継者不在、事業承継ニーズに応えるべく、株式会社絆コーポレーションを設立。M&Aアドバイザリー事業、スペシャリストの人材紹介事業を展開。著書に『継がない子、残したい親のM&A戦略』(幻冬舎)がある。
最新M&A情報を届ける 登録無料のメールマガジン 売買案件 体験談 最新コラム