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「ホールディングス化」のメリットとデメリットは? ――基礎知識から具体的なスキームまで徹底解説!

投稿日:2021年11月29日

[著]:小川 潤也

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ニュースなどでその動向が取り上げられる大きな会社は、その多くが「ホールディングス」と社名に付いている印象がありませんか?

大企業では一般的になっているといえる「ホールディングス」ですが、最近では会社の規模にかかわらず「ホールディングス化」が活発になっている傾向にあります。

本記事では、ホールディングス化とは何か、その詳細を解説します。

ホールディングス化とは?

ホールディングス化とは、持株会社を設立し、複数の事業会社の株式を保有することでグループを形成し、経営の強化や効率化を図ることです。

持株会社(ホールディングス)は親会社としてグループ全体の経営に関与し、資金の分配や人材の配置(人事)を決めたり、それぞれの会社の監督・指導を行いますが、「純粋持株会社」と「事業持株会社」の2つのタイプが存在します。

純粋持株会社は、子会社の株式を保有するためだけの会社で、グループの経営管理に専念する役割となっています。事業実態がなく、会社の収益は子会社からの配当金がほとんどです。

一方の事業持株会社では、自らも事業を行い、親子企業で相乗効果を発揮するといった経営戦略でグループを活性化することも期待できます。

ホールディングスが広がった背景には、2002年の会社法改正が要因のひとつとして挙げられます。これにより持株会社の設立が簡単になったことに加え、税制の優遇もあり、ホールディングス化が浸透したと考えられます。

また、ホールディングス化による税金対策には、グループ通算制度があります。親会社と子会社が一体として課税されるので、お互いの利益と損失を相殺し、課税所得や法人税を減らすことができます。

ほかにも、持株会社が子会社の株式を買い増すことで、子会社の株価を抑制することも可能です。株価が上昇しすぎると株式の譲渡益が発生し、新たに税金(譲渡所得税)がかかりますので、これを阻止するためです。

古くは戦前から財閥グループなどでホールディングス化は見られましたが、独占禁止法によって戦後は持株会社の設立が禁止されていました。しかし、1997年の法改正で解禁され、いまでは600社以上の持株会社が存在しています。

参考:日本経済団体連合会「持株会社の解禁について」
https://www.keidanren.or.jp/japanese/journal/CLIP/clip0054/cli014.html

ホールディングス化の目的は?

企業は競争力をつけ、企業価値を高めなければなりません。そのために経営資源を有効活用し、効率よく事業を行う必要があります。その取組の一環として、ホールディングス化という手段が存在します。

多くの企業をひとつのグループにまとめ、それぞれの役割分担を決め、その業務に専念できるようにする、つまり経営資源の最適化を目指すことがホールディングス化の目的になります。

持株会社はグループ全体を取り仕切ることに専念することで、傘下の企業は経営戦略や運営管理に気を取られることなくそれぞれの事業に集中でき、生産性や収益性の最大化に取り組めます。

また、近年よく話題になる「コーポレートガバナンス」の側面からも注目されていると考えられます。コーポレートガバナンスとは、公正な判断や健全な経営が行えるように迅速で果断な意思決定を行うため仕組みのことで、ホールディングス化の機能・効用とつながるものになっています。

参考:金融庁「コーポレートガバナンスコード」
https://www.fsa.go.jp/news/30/singi/20180326-1/02.pdf

持株会社は、経営面について、方針や戦略、目標などを意思決定する部分が着目されますが、グループの監督者として、社内規定や職場ルール、コンプライアンスといった組織の内側に関しても設定、査定します。

内部統制やコンプライアンスを強化することで業績面だけではなく、社会的な評価も獲得できることが期待されます。

上記のように、ホールディングス化の目的はさまざまですが、実行するのに適している会社かどうかの判断も必要になってくるでしょう。

判断基準としては、年商・拠点数・株主構成・関連会社の数といった要素が考えられます。一般に、年商や関連会社の数が多い企業ほどホールディングス化に適していると言えます。会社の規模や業界水準、地方展開力などが判断のポイントになります。

もちろん、会社が行っている事業の種類や分野も重要です。特に異業種展開している会社であればホールディングス化の恩恵を受けやすく、食品―化粧品―医薬品など似た分野ながら異なる事業を行っている会社などは強みを出せる可能性が高まります。

ホールディングス化のメリット・デメリットは?

ここまで、ホールディングス化の基本的なところについて解説してきましたが、では、ホールディングス化によって受けられるメリットや気をつけなければいけない点について具体的に触れていきたいと思います。

【メリット】
・経営の効率化
まずは、経営の効率化です。前段でもたびたび言及していますが、持株会社が総合的な経営判断を行う一方で子会社は事業に注力できるなど、効率的に経営を行うことが可能になります。

子会社で進めていたプランを親会社から急に中止しろと言われたなどよく聞く話ですが、親会社と子会社で意思の疎通ができていなかったり、情報が共有されていないために、経営方針や戦略面などで齟齬が生じるといったことが往々にしてあります。

ホールディングス化によって明確に役割分担されていると、こういった事態が発生する可能性も低くなり、スムーズに業務を遂行できるでしょう。

こうしたメリットは、事業にその効果が波及することも期待できます。たとえばブランド力の向上です。それぞれの子会社が事業に注力することで競争力や企業価値を上げ、ブランド力が高まるとともに、グループとしてブランディングの統一を図り、知名度やイメージを広範に伝えることができます。

・意思決定の迅速化
持株会社は、意思決定機関としてグループ全体の経営判断を迅速に行えます。必要な判断を、必要な時期に、適切なタイミングで下し、親会社としてスピーディーにその内容を伝えることができる仕組みを構築できるのです。

この意思決定の迅速化は、グループ全体のみならず、それぞれの子会社でも機能します。子会社は別法人として各々が独立して、事業に対する権限を移譲されている場合が多いので、細かな部門単位の意思決定は子会社のなかで行えます。無意味に上(親会社)の判断を仰ぐようなことはありません。

・リスク分散
大きな企業であれば、各事業部門のリスクや過失を会社全体として包括しなければなりませんが、ホールディングス化を行った場合はそれぞれの子会社が独立したものになるので、問題が発生した場合でもほかの企業に大きく影響を与えなくてすみます。

ある事業が営業停止処分を受けたとしても、ほかの子会社はそのまま営業を続けることができるなど、グループ全体としてリスクヘッジを行えます。

また、ひとつの事業会社が深刻な業績悪化に陥ったとしても、グループが経営危機に直面するような可能性も極めて低いです。大企業で起こり得るさまざまなリスクを未然に防げるという面があります。

・分散した株式の集約
会社の株式が何らかの要因で分散した際にホールディングス化を進めると、株式の集約を目的とした少数株主の交渉機会が設けられます。

仮に経営者が亡くなったとして、持っていた自社の株式が相続財産として多数の親族に相続され、将来的な経営が困難になる可能性が高まります。

中小企業の多くは株式に譲渡制限を設けられているので、取締役会や株主総会で認められないと第三者に譲渡できず、容易に株式を集められないといった状況が発生するので、ホールディングス化に伴う株式集約の機会は大きなメリットになると考えられます。

・事業承継の準備
意外に感じるかもしれませんが、ホールディングス化は事業継承対策としても機能します。

経営者として持株会社の株式を保有していれば、不慮の出来事が起こっても、後継者に持株会社の株式を相続すれば、グループ全体の経営権が次の代へと移されます。グループ企業としての継続性や安定性を担保することが可能です。

また、後継者候補を子会社の経営者として任命し、適正や実力を測ったり、経営者としての経験を積ませたりなどの後継者育成を実現できます。

ちなみに、持株会社の株式は子会社の株式より流動性が高いので、相続税や贈与税の負担を軽減できるといったメリットもあります。

・M&Aを活用した多角化経営
会社経営においてあまりに多角化しすぎると失敗するといった言葉を聞いたことがあると思いますが、ホールディングス化すると、それがむしろ強みになる場合もあります。

ホールディングスの組織形態であれば、M&Aによって外部の企業を買収し、実態はそのままでグループ内の会社として取り込むことが可能です。グループ会社として、分野や市場を拡大すれば、収益アップの機会となったり、事業の成長を促す要因になることを期待できます。

楽天やソフトバンクなどは、この事例に見事に当てはまる企業ではないでしょうか。

また、持株会社が新たな事業を展開するために自ら子会社を設立で、子会社の事業にとらわれることなく、事業領域や市場を分析しながら、グループ全体の戦略ビジョンに適合する事業展開を図れます。

【デメリット】
・管理コストの増加

当然のことですが、規模が大きくなるほど維持運営には費用がかかります。子会社の数だけ単純に管理するコストが増えますので、それをカバーできるほどの効果を期待できるか、ホールディングス化の前に検証する必要があります。

ホールディングス化に伴う費用や経費は持株会社と子会社が負担するので、方法や規模、タイミングや目的などについても話し合ったほうが良いでしょう。

収支のバランスが悪化するとグループとしての利益やキャッシュフローの低下も招く可能性があり、株価にも影響を与えかねません。

・求心力の低下
持株会社が経営判断を下すので意思決定の迅速化をもたらすメリットがある一方、業務に関する権限はそれぞれの子会社に移譲されているので、子会社ごとの判断ができる結果、持株会社やグループの経営者が大きな影響力を発揮できない危険性もあります。

特に、強いカリスマ性を持つ創業者から二代目三代目と後継者に引き継がれていくにつれ求心力が低下していくのはよくある話です。日頃から、持株会社と各事業会社、経営者とグループ社員が企業としてのビジョンを共有する機会を設けたり、程よくコミュニケーション取り交わしたりすることも重要になります。

・セクショナリズムの弊害
ホールディングス形態はそれぞれの子会社において独立性が高いので、セクショナリズムを生み出しやすい環境にあると言えるかもしれません。

セクショナリズムとは、集団・組織内部の各部署自らが持つ権利や利益を優先し、お互いに協力しあわないで外部からの干渉を排除しようとする状態を指します。

グループ内で対立や悪い意味での競争が生じると、ホールディングス化の強みを活かせないばかりか、全体の成果や業績に悪影響を及ぼします。

こういった問題を解決するためには、利益や経営進言の分配に公平さ、公正さをもたせる必要があります。また、グループとして組織の文化や空気を統一できるようにしたり、グループ間でのコミュニケーションの促進が重要になります。

情報や人材の共有やグループ内の事業コラボ、交流人事などグループ間の連携を必要とするような施策で、各社が協力しあう雰囲気づくりを行う必要もあるでしょう。

ホールディングス化の手法

実際にホールディングス化を行う場合は、いくかのやり方がありますので、どの手法で進めていくかを検討しなければなりません。3つの代表的なものを紹介します。

①既存の会社を持株会社と、その子会社に分ける
もともとある1つの会社を親会社と子会社に分ける手法です。この場合は、親会社を持株会社にし、子会社を事業会社としてホールディングス化します。

また、子会社を事業や部門ごとに分社かして複数の子会社をホールディングス化すればグループ企業としての形がよりはっきりするでしょう。

②既存の会社を事業部門ごとに複数の子会社に分社化し、その上に持株会社をつくる
上記の手法に似ていますが、こちらはもともとある会社を事業部門ごとに分社化し、持株会社を新たに設立するやり方になります。

子会社の株式を持株会社に保有させることになりますが、もともとの会社の経営者が持っていた株式も持株会社が保有することになり、株式の集約や事業継承の準備などに役立ちます。このために、この手法は中小企業でよく見られるケースになります。

③複数のグループ会社の上に、持株会社をつくる
こちらはもうすでにグループ会社として複数の企業が存在している場合に効率的な手法で、新たに持株会社を設立して、この会社がそれぞれのグループ会社の株式を取得する流れです。

グループ経営の強化や組織再編などがホールディングス化の狙いになるかと思いますが、意思決定の迅速化や経営の効率化といったホールディングス化で得られるメリットを受けられることが期待できます。

また、株式のやり取りにもいくつの方法が存在します。

ホールディングス化でよく行われるが「株式移転方式」になります。新設された持株会社にすべての株式を移転させる方法です。ただ、株式が移転するだけで、不動産や機械設備などの資産は子会社に残ります。

子会社は株式移転の対価として持株会社の株式を割り当てられることになります。こうしてグループとして企業間の関係が構成されるのです。

一方の「株式交換方式」は、新たに設立した持株会社が既存の会社と株式を交換することです。100%の子会社化ができる企業再編の方法になります。

主に上場企業が非上場企業を自社の子会社にする場合で採択されるやり方で、株式によって取引が行われるので、資金を用意しなくても会社間の親子関係を構築できます。

このように、ホールディングス化を実際に行うためにはさまざまな方法がありますが、状況や目的に合わせ、専門家に相談するなど、もっとも良い手法を選んでください。

まとめ

ホールディングス化とは、持株会社と子会社の関係からなる経営形態の1つで、主にグループ企業で用いられるものとなっています。経営の効率化や意思決定の迅速化などをメリットに、グループとしての経営体制を強化する取り組みです。

もともと多くの事業を抱えている既存の企業が部門ごとに分社してホールディングス化するのはもちろん、M&Aによって事業を拡大する際にスムーズに進めることができたり、多角化経営を目指すうえでの助けとなったり、企業再編の手段としてさまざまに利用できるでしょう。

ただ、ホールディングス化をする場合は「持株会社」の設立が欠かせないものであり、株式のやり取りを含め、やはり専門家のサポートや助言が必要となる機会が多く存在します。ホールディングス化を検討する際は、専門家への相談もお忘れなく。

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著者

小川 潤也

株式会社絆コーポレーション
代表取締役

1975年新潟県新潟市(旧巻町)生まれ。株式会社絆コーポレーション代表取締役社長。大学卒業後、株式会社富士銀行(現・みずほ銀行)入行。法人担当として融資、事業再生、M&Aなどの総合金融サービスを手がける。2004年、医療介護の人材サービスを手がける株式会社ケアスタッフの代表取締役に就任。また銀行勤務時代に培った新規取引先の開拓やM&Aでの経験を生かし、地方都市の後継者不在、事業承継ニーズに応えるべく、株式会社絆コーポレーションを設立。M&Aアドバイザリー事業、スペシャリストの人材紹介事業を展開。著書に『継がない子、残したい親のM&A戦略』(幻冬舎)がある。
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