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なぜ、あなたの子どもは会社を継ぎたがらないのか?

[著]:小川 潤也

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企業の6割ほどが後継者不在だと言われる昨今。かつて多くの会社は子どもや親族に事業を承継していましたが、その親族内承継が大幅に減ったのが、企業の後継者不足の大きな原因です。

では、現代の子どもはなぜ、家業を継がなくなってしまったのでしょうか?その理由を分析しました。

継がない理由①好きなことをして生きていきたい

家業は継ぐのが当たり前、という時代、商家に生まれた以上は職業の選り好みなどはあり得ませんでした。薬屋の長男であれば薬屋として生きることを、酒屋に生まれれば酒屋として生きることが宿命づけられていたのです。

継がなければ家がなくなっては大変という思想が刷り込まれていましたが、現代は家という概念が薄れ、個人の方が重要視されています。また、長男が家を継いて、墓を守るという日本古来の哲学がありましたが、それは戦後、長子単独相続が廃止となり、緒子均分相続制が導入されたことにより、だんだんと薄れてきました。

要は好きなことをして生きていきたいし、我慢して、家を継がせるという親も少なくなってきたのです。

また、現代は価値観が多様化し、職業を自分の好きに選ぶ時代となっています。もはや、親と同じ職業を選ぶ子どものほうが珍しいでしょう。

関心もない事業をわざわざ承継して経営者の苦労を背負うことはない、と思う社長の子息が多くなったのです。

継がない理由②子どもが既に自分の人生を歩んでいる

子どもを立派に育て上げるまで会社を安定経営し続けた経営者の子どもは当然、優秀な人が多いものです。そうすると自然に、高校を卒業したら地元を出て東京の有名大学に進学し、大手企業に就職する、というコースをたどることが多くなります。

結婚し、子どもができ、ローンを組んで家を買い……といったように着々と人生のステップを進んでいくうちに、キャリアを捨てて親の会社を継ぐ、という選択を取ることはどんどん難しくなっていきます。そもそも、エリートで待遇もいいのであれば中小企業の社長になどなりたくない、と考えるのも仕方のないところでしょう。

親の体調不良などで事業承継を迫られるタイミングになっても、現実的に承継するのが難しい状況になっていることが多いのです。

継がない理由③経営者の素質がない

経営者の子どもには優秀な人が多いものですが、さりとて子ども自身も経営者としての素質を受け継いでいるとは限りません。

従業員として優秀であることと、経営者として会社を切り盛りするのは別の資質です。

また、資質以上に、経営者には企業家精神とでもいうべき、経営に対する強い意欲を持っていることが不可欠です。ハングリー精神の養いづらいお坊ちゃん育ちの子息には、経営者には全く向かないタイプに育ってしまう人が少なくないのです。

継がない理由④会社の属する業界が先行き不安である

事業には、時代の波が大きく影響します。

今日の大企業は、その多くが明治維新から戦後の高度経済成長期の間に創業し、売り上げを伸ばしてきました。日本経済自体の未来が明るいと人々が確信できた時代であれば、たとえ小さくても会社の社長になるというのは魅力的な選択肢であったでしょう。

しかし、時代は変わり、日本経済は変化が激しく低成長のトレンドが長く続いています。大企業ならともかく、中小企業ではもはや業界自体の先行きが暗いと思われる業界は少なくありません。

時代から取り残された会社を継いでも不幸になるだけ。そう考えて承継を拒否する経営者の子息も多いのです。

継がない理由⑤親子のコミュニケーション不足

事業の承継について面と向かって話すというのは、親にとっても子どもにとっても少々気恥ずかしいものです。親のほうから話を向けなければ、子どものほうから承継について話してくることはまずありません。

男の子が複数いる場合は長男、次男はお互いが「あっちが継ぐだろう」と都合の良い解釈をしがちです。さらに男兄弟でそんな話を改まってすることは、ほとんどありません。しかし、一人っ子の場合や兄妹に男が1人の場合は環境でなんとなく覚悟をしているケースが多く、自然と継ぐ準備をしたりしています。

子供が何人いるか、男の子か、女の子か、誰に継がせるか、いろいろと親は迷うケースもあるでしょう。しかし、引退を考えはじめても、話を伸ばし伸ばしにして「子どもはわかっていてくれるだろう」と勝手に解釈してしまうのです。子どもの方としては逆に、「おやじは自分に会社を継がせる気があるのか、ないのか?」また、それとなく聞いてみても「好きなことをすればいい」などと強がってみるのも親です。

そうしたお見合い状態が長く続くと、やがて子どもは自分の人生を歩み始めてしまいます。そうすれば、継がない理由②の状態になってしまいます。

親子は距離が近すぎるために遠慮が生まれてしまいますが、後になってから「当時は実は、継がせる気も継ぐ気もあった」となってしまっては手遅れなのです。

まとめ

昨今は経営者の側も子どもに事業を継がせる気のない人が増えましたが、それ以上に継ぐ気のない子どもは非常に多くなっています。

もし子どもに会社を継がせようという意思があるのなら、大学進学、就職活動前など節目の時に、親子で承継について真剣に話をしておくべきでしょう。

子どもが会社を継ぐのが事業承継のベストな形であるとは限りませんが、少なくても親子双方が納得いく形で会社を受け継いでいくのが理想です。

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著者

小川 潤也

株式会社絆コーポレーション
代表取締役

1975年新潟県新潟市(旧巻町)生まれ。株式会社絆コーポレーション代表取締役社長。大学卒業後、株式会社富士銀行(現・みずほ銀行)入行。法人担当として融資、事業再生、M&Aなどの総合金融サービスを手がける。2004年、医療介護の人材サービスを手がける株式会社ケアスタッフの代表取締役に就任。また銀行勤務時代に培った新規取引先の開拓やM&Aでの経験を生かし、地方都市の後継者不在、事業承継ニーズに応えるべく、株式会社絆コーポレーションを設立。M&Aアドバイザリー事業、スペシャリストの人材紹介事業を展開。著書に『継がない子、残したい親のM&A戦略』(幻冬舎)がある。
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