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70歳を過ぎてからのM&Aでハッピーリタイアを実現した事例

[著]:小川 潤也

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M&Aにおいては、「70歳を過ぎてからでは遅すぎる」ということがよく言われます。

業界を問わず、ITの発展などでビジネス環境の変化は非常に激しくなりました。経営者が歳を取れば当然、社員も高齢化するため、会社として最先端の情報をキャッチアップしていくことが難しくなってきます。次世代の社員を採用・育成することも難しく、経営者が70代に差し掛かると将来のビジョンを描けないまま現状維持になってしまいがちなのです。

また、M&Aは経営者にとって大仕事。数字をまとめたり資料を整理したり交渉したりとやることが多く、重大な経営判断に頭を使う必要もあります。体力と気力がなければ乗り切れません。

しかし、「歳を取り過ぎたからもう遅い」と諦めかけている経営者の皆さんに当社が伝えたいのは、何事も遅すぎることはない、ということです。

当社がコンサルティングに入ったM&A案件の中から、オーナー経営者が70歳を過ぎてからの決断で成功に至ったケースを紹介しましょう。

事業承継を先延ばしにしているうちに70歳に

工事関連会社の創業者であるAさんが当社に相談に訪れたのは、70歳を過ぎた頃でした。

Aさんは1970年代、30歳を前にして勝負の起業。職人としての高い技術と持ち前の誠実な人柄で順調に会社を成長させ続け、従業員数約70人を抱える安定企業を築き上げました。

経営業に打ち込むうち、60歳を過ぎてからは承継について意識するようになりましたが、後継者不在に悩むことになりました。息子は自分の仕事と家族を持って社会人人生を既に歩んでおり、また経営者に向くいたタイプではなかったのです。社内にも後継社長として適した人材はおらず、経営が安定していたこともあって先延ばしにしているうちに70歳に。

周りにいる同年代の経営者仲間が既にリタイアを果たしていたり、健康を害して社長を続けられなくなったりしている現実を目の当たりにして焦り、「いい相手に売却できるならば」とM&Aを検討するようになったのです。

経営者の明確なビジョンに成功を確信

当社の担当者がAさんと話したとき、M&Aの成功を確信しました。「今ならまだ業績は安定しており、5年先くらいまでは問題なく経営が続くことが見えている。頑張ってくれている社員のためにも廃業は考えられず、オーナーが変わることで事業が続くのなら今M&Aするのが最良のタイミングだと思う」と、自社の現状認識とM&Aに対する理解が非常に的確であったからです。また、Aさんの奥様がAさんに全面的に味方しており、サポートする姿勢であったことも好材料でした。

後は当社のやるべきことは、Aさんの会社に合った適切な買い手を探してマッチングすることだけでした。

M&AのプロセスはAさんの協力を得てとんとん拍子に進み、2ヶ月後には買い手候補企業とのトップ面談が実現しました。買い手候補となったのは隣接業種の設備工事会社で、売上規模はAさんの会社の約10倍。40代の2代目社長は、実力と謙虚な人柄を兼ね合わせた魅力的な人物でした。

買い手候補のニーズとしては、工事関連の隣接業種を買収してシナジーを発揮したいというもので、Aさんの会社の買い手としてはまさに適任だと判断しました。

トップ面談は和やかな雰囲気に終始し、Aさんは買い手候補企業の社長の人柄を大変気に入ります。お互いの経営哲学や人生哲学のみならず、コミュニケーションの取り方に至るまでが他人とは思えないほど見事にマッチしていたのです。30歳近くの歳の差を物ともせずに二人は意気投合し、「この人にならばぜひ会社を受け継いでほしい」「この人の会社であればぜひ受け継ぎたい」と相思相愛になりました。

金額交渉もスムーズにまとまり、ほぼAさんの希望価格どおりで最終交渉に進みました。コンサルティングに入った当社としても、理想のM&A案件の一つとして記憶に残っています。

Aさんは買い手企業に請われて1年間、売却後も顧問として自社に留まることになり、経営者保証の借金などの心配から解き放たれてのびのび仕事を続けつつ、家族と趣味を楽しむ余暇も十分に確保できるようになりました。

老後の生活資金も確保でき、まさにハッピーリタイアと相成ったのです。

まとめ

当社が高齢の経営者の相談に乗る際、確かに「早い段階で決断したほうがいい」とは申し上げます。相談に来た時点で経営者が既に健康に問題を抱えていたり、業績が下向き始めていたりする場合が少なくないからです。そうなれば当然、先延ばしにすればするほど買い手はつきにくくなります。

しかし、それはあくまで一般論であり、Aさんのケースでは70歳を過ぎたときがベストのタイミングでした。

2019年の中小企業白書によれば、経営者の年齢のピークは69歳。70代でハッピーリタイアを実現する人は今後ますます増えることが予想されます。

一つ重要なポイントとしては、会社の業績が安定しているうちに決断すべき、ということでしょう。業績の良い会社であれば買い手は比較的簡単に見つかります。

思い立ったが吉日。「歳を取ったから遅すぎる」と諦めるのではなく、M&Aを検討した時点ですぐコンサルタントに相談すれば、まだまだ間に合う可能性は十分に残っています。

ベストなタイミングがいつなのかは、あなたとあなたの会社次第なのです。

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著者

小川 潤也

株式会社絆コーポレーション
代表取締役

1975年新潟県新潟市(旧巻町)生まれ。株式会社絆コーポレーション代表取締役社長。大学卒業後、株式会社富士銀行(現・みずほ銀行)入行。法人担当として融資、事業再生、M&Aなどの総合金融サービスを手がける。2004年、医療介護の人材サービスを手がける株式会社ケアスタッフの代表取締役に就任。また銀行勤務時代に培った新規取引先の開拓やM&Aでの経験を生かし、地方都市の後継者不在、事業承継ニーズに応えるべく、株式会社絆コーポレーションを設立。M&Aアドバイザリー事業、スペシャリストの人材紹介事業を展開。著書に『継がない子、残したい親のM&A戦略』(幻冬舎)がある。
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