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「中小M&Aガイドライン」が改訂! 変更点とポイントを徹底解説

投稿日:2025年3月10日

[著]:小川 潤也

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最近、M&Aをめぐるトラブルがメディアで取り上げられることが急増しています。不適切な買い手企業やM&A仲介会社の存在が問題視されるようになりました。

M&Aによる中小企業の事業承継を推進している中小企業庁はこうした事態を重くとらえ、「中小M&Aガイドライン」を改訂しました。

本記事では、具体的な改訂内容を見ていきましょう。

「中小M&Aガイドライン」とは?

中小企業の後継者不足が深刻化していることから、M&Aに関心がある経営者が増えてきています。ところが、中小企業の経営者がM&Aを躊躇する原因の1つになっているのが、適切なM&A仲介会社を判断するのが困難なことでした。

そこで、中小企業庁は2020年3月、「中小M&Aガイドライン」を策定しました。これによってM&Aの際に確認すべき事項や手数料の目安を明示したのです。

それでも中小企業のM&Aをめぐるトラブルが後を絶ちません。中小企業庁はさらなる内容の充実を図り、2023年に第2版を、2024年には第3版をリリースしました。

2024年、第3版の主な改訂内容

最新の第3版での改訂内容を見てみましょう。

1.M&A仲介会社やファイナンシャルアドバイザー(FA)の手数料・提供業務

M&A仲介会社の業務内容・質や手数料など、中小企業が確認すべき事項を示しています。

一方で、M&A仲介者が顧客に説明すべきことも追記しています。たとえば、担当者の保有資格や経験年数・成約実績などです。

2.広告・営業の禁止事項の明記

相手が希望しない場合の広告・営業の停止のほか、M&A成立の可能性などの誤解を与える広告・営業の禁止を明記しています。

3.利益相反に係る禁止事項の明記

買い手側から追加で手数料を取って便宜を図ったり、リピーターを優遇したりといった利益相反となる行為を具体化しました。

4.ネームクリアなどに関する規律

売り手側の名称を買い手側に開示するネームクリアについて順守すべき規律を明記しました。

5.最終契約後の当事者間のリスク事項

最終契約後に当事者間でトラブルとなりうるリスク事項を解説しています。

6.売り手側の経営者保証の扱い

売り手側はM&A成立前に、士業や金融機関などに経営者保証について相談することを検討するように推奨しています。

7.不適切な事業者の排除

不適切な買い手企業を中小M&A市場から排除していくために、M&A仲介会社による対策が必要だとしています。

ポイントは「不適切な事業者の排除」!

今回の改訂でポイントになるのは、7の「不適切な事業者の排除」です。

つまり、悪質な買い手企業をいかに排除するかが大きな課題になっています。

たとえば、

・M&A成立後、売り手企業の資金を買い手の社長の個人口座に送金させるなど、違法性が疑われる行為
 この対策としては買い手の決算書の開示を求めることが推奨されております。売り手と同じように過去3期分の税務申告書付きの決算書の中味を見て、買い手としてふさわしいか、売り手が判断することも重要です。

・売り手企業の経営者保証を解除する約束が履行されず、譲渡した後も連帯保証が外れない。契約書に保証解除の文言や期限が明記されてないケースもあるようです。
 長年、M&Aに携わるものとしては保証解除を契約書に盛り込み、譲渡前に金融機関へ相談するのは基本中の基本です。当事者責任といえば、その通りですが、それをアドバイスするのが、M&Aコンサルタントの責務だと思います。

2024年には、数十社の中小企業を買収して資金だけを抜き取る買い手企業のやり方が“M&A錬金術”だとメディアで批判的に取り上げられるようになりました。

こうした悪質な買い手企業に対するチェック機能の強化をM&A仲介会社に求める内容です。

さらに、第3版ではM&A仲介会社が情報共有する仕組みの構築にも言及しています。

M&A仲介会社が説明すべき事項を追加!

M&A仲介会社は、中小企業と契約を締結する前に、重要事項を記載した書面を交付して、明確な説明をしなければなりません。第3版では、M&A仲介会社が説明すべき事項を追加しています。

具体的には、
・担当者のM&A仲介やFAの成約実績、経験年数。大手や新しく独立したばかりのM&A仲介業者は新人が多いので、この担当者自身の実績や経験年数は浅い方が多いようで、この開示に難色を示しているところもいると聞いております。

そして、資格(公認会計士、税理士、中小企業診断士、弁護士、行政書士、司法書士、社会保険労務士など)もあればということですが、士業の方がM&Aの仲介やFAに立たれることはあまり、お目にかかったことがありません。

・相手方の手数料に関する事項(算定基準、最低手数料、支払時期等)
 手数料の基準を開示することで、信頼性の向上を狙っているようです。

・業界内での情報共有の仕組みへの参加有無
 これは売り手の情報をどのような方法で、自社のWEB、他社との連携、バトンズなどのマッチングサイトに掲載するかなどのようです。

受け側企業だけでなく、M&A仲介会社にも公平性や質の向上が強く求められているというわけです。

まとめ

後継者がいない中小企業の資金を抜き取って放置する買い手の存在が社会問題化しました。倒産させずに後世に残そうと会社を売却したのに、かえって倒産に追い込まれるケースもあったようです。こんなことはあってはなりません。

悪質な買い手かどうかを見抜くのは、売り手企業単独では難しいでしょう。そこで大事なのが信頼できるM&A仲介会社選びです。M&Aでは、仲介会社選びが成否を左右するといっても過言ではありません。その見極めは担当者や上司の経験と実績です。

M&A仲介の担当者に面談したら、まずはその担当者とその上司で一緒にM&Aに取り組まれる方の「成約実績、経験年数」を確認することをお勧めします。

M&Aを考えているなら「中小M&Aガイドライン」を参考にしつつ、慎重にM&A仲介会社を選ぶようにしましょう。

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著者

小川 潤也

株式会社絆コーポレーション
代表取締役

1975年新潟県新潟市(旧巻町)生まれ。株式会社絆コーポレーション代表取締役社長。大学卒業後、株式会社富士銀行(現・みずほ銀行)入行。法人担当として融資、事業再生、M&Aなどの総合金融サービスを手がける。2004年、医療介護の人材サービスを手がける株式会社ケアスタッフの代表取締役に就任。また銀行勤務時代に培った新規取引先の開拓やM&Aでの経験を生かし、地方都市の後継者不在、事業承継ニーズに応えるべく、株式会社絆コーポレーションを設立。M&Aアドバイザリー事業、スペシャリストの人材紹介事業を展開。著書に『継がない子、残したい親のM&A戦略』(幻冬舎)がある。
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