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地元で愛される「ガラス店」を、まったくの異業種出身の後継者に承継!――異例ずくめのM&A成功談

[著]:小川 潤也

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株式会社リョウサンは、埼玉県川口市に本社を置く、窓ガラス工事やサッシ工事、エクステリア工事を展開する企業です。昭和27年に「有限会社高橋ガラス店」として創業し、息子である高橋良征氏が引き継ぎましたが、高橋氏自身が引退後の会社の存続を危ぶみ、このたびM&Aに踏み切りました。事業を継いでくれたのは意外にも、まったく違う業界の方だったのです。

希望条件にかなう相手がなかなか見つからない

−−そもそも、M&Aを検討されたのはどういった事情からでしょうか。

高橋:創業した私の父から会社を引き継いでやってきましたが、私も年齢が78歳になりました。いつまでも会社はできませんが、私が引退してしまうと、後継ぎがいないんです。長女が事務を手伝ってくれているんですが、「私は後継ぎはできないよ」と言われています。息子も一人いますが、建築とは全く違う方面の会社に勤めていて、地位もかなり上に行っているので、辞めるわけにはいかないと言われまして。

とはいえ、今従業員が12人いるので、会社をなくすという選択肢はありませんでした。従業員に、「もううちは廃業するから、どこか他の仕事を探してくれ」なんて、そんな無責任なことは私には絶対言えませんから。

そういう事情で、他に誰か探さなければと思ったわけです。

−−最初は、M&Aを銀行さんに相談していたとのことですが……。

高橋:私の考えとしては、川口市内の方に引き継ぐつもりはあまりなかったんです。それよりも地方の、例えば新潟の業者で、東京首都圏に拠点を持ちたいという人がいたら、そういう人に引き継いでもらうのがいいんじゃないかと思っていました。

うちは、東京と隣接している川口だから、首都圏の工事は全部できます。それで、そういった希望のある会社はあるだろうかと、取引銀行に聞いてみたんです。

銀行さんからはいくつか相手先を紹介していただいたんですが、最終的にこちらの思いと一致しない点があって、結局は話が流れてしまっていました。たとえばある会社などは、「ここを土地も建物も全部買い取るから、どこかに移転してくれ」というんです。私としては別の土地に移る気持ちはなかったので、「そういうことはちょっとできない」とお断りしました。

−−そのような経緯を経たのちに、絆コーポレーションと出会ったわけですね。

高橋:きっかけは銀行さんのご紹介でした。こちらの希望は、会社の場所もそのまま変わらず、従業員もそのまま引き継いでくれる相手。その条件をお伝えして、「この人がいいんじゃないか」という方を紹介してくださったんです。

後継者候補と話してみると、「場所も従業員もまるごと今のままで、代表だけ私が務めます」と言う。本人としっかり話してみた結果、「この人なら大丈夫だな」と思って合意したわけです。

実は、銀行さんにお願いしてから1年半くらいはM&Aが進まなかったのですが、絆さんに移ってからは、非常にスムーズに進んで、半年はかかっていないくらいだと思います。話が決まってから引き継ぎにまつわる支払い関係の手続きなども全部おまかせできたので、ストレスを感じるようなことはありませんでしたね。

まったくの異業種から会社の後継者に

−−今回の買い手さんは、やはり同業の方ですか?

高橋:それがまったく違って、元銀行員の方なんです。現在は違う業種なんですが、「勉強してここの後継者になりたい」ということで。

あちらからの条件としては、最低でも2年間は私が残ってサポートしてもらいたいということ。具体的には、11月末でいったん全部の手続きが終了しますが、それから最低2年間は私が在籍して、仕事を少しずつ移譲していくという流れです。

本人は、もう12月1日からうちに来ているんです。うちは建築関係ですから現場仕事もあるんですが、その実際の現場に全部行ってます。彼はこれまでネクタイ仕事だったんですが、作業着で一応仕事を体験していますね。一緒に現場に行って、仕事も実践して身につけて、 それから経営面を毎年黒字になるように継続していくと、そういう手順です。まあ、2年間あれば十分かなと思います。

−−業界の経験のない方に引き継ぐにあたって、おまかせしようという決め手になった点はどういうところでしょうか。

高橋:一番大事なのはやっぱり、現状を維持してくれるという意思があるかないかですね。とりあえず今の業務、仕事関係を継続するっていうことが最優先だと私は思っていましたので、その点で話が一致したということです。

彼の年齢は55歳なので、これから20年はできるだろうとも思いました。今後、新社長が自分の間口を増やして業務を少しずつ拡大するとか、そういうことは本人の能力におまかせします。

元銀行員ということで、うちの資産内容はもちろん全部見せていますが、「これは自分が仕事を覚えれば継続できる」と、そういうふうに確信したのではないかと思いますね。

規模の大小に関わらず、会社は継続すべき

−−従業員さんは、高橋さんが引退されて、社長が新しい方に代わるにあたって、どんな反応をされましたか?

高橋:最初に話したときは驚いたかもしれませんが、「社長を引き継ぐけれども私はまだ2年間いるし、全部今まで通りだよ」ということを言ったら、それでもうみんな納得して、「ぜひお願いします」ってことでしたね。ずっといられる、この会社もなくならない、今まで通り仕事ができるということが、従業員にも納得できたのでしょう。だから混乱はなかったですね。

−−最後に、現在、会社をどうしようかと悩んでおられる方に、M&Aの成功者としてメッセージをいただけますか?

高橋:そうですね、後継ぎもいないから自分の代で終わり……と考えておられるならば、会社の規模の大小にかかわらず、とにかく継続を考えた方がいいんじゃないかと言いたいですね。

会社というのは、従業員やいろいろな関係で成り立っています。お客さんのためにも業界のためにも、あるいはメーカーや問屋、仕入れ先のためにも、継続するのが一番いいんですよ。

私は今回のM&Aで、「引き継いだあとに現状をしっかりキープしてくれること」が最低条件でした。事業を衰退させないことは、経営者としての責任ともいえます。経営の仕方は人それぞれですから、いろいろな考え方があると思いますが、従業員への責任、取引先や顧客への責任、これまで長年にわたって築き上げてきたものを蔑ろにしてはいけない――私はそんなふうに考えていますね。

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著者

小川 潤也

株式会社絆コーポレーション
代表取締役

1975年新潟県新潟市(旧巻町)生まれ。株式会社絆コーポレーション代表取締役社長。大学卒業後、株式会社富士銀行(現・みずほ銀行)入行。法人担当として融資、事業再生、M&Aなどの総合金融サービスを手がける。2004年、医療介護の人材サービスを手がける株式会社ケアスタッフの代表取締役に就任。また銀行勤務時代に培った新規取引先の開拓やM&Aでの経験を生かし、地方都市の後継者不在、事業承継ニーズに応えるべく、株式会社絆コーポレーションを設立。M&Aアドバイザリー事業、スペシャリストの人材紹介事業を展開。著書に『継がない子、残したい親のM&A戦略』(幻冬舎)がある。
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