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事業承継ファンドとは? メリット・デメリットや注意点を知ろう

投稿日:2021年5月18日

[著]:小川 潤也

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近年、企業の後継者不足を解消する方法として「事業承継ファンド」の注目度が上昇しています。
それでは事業承継ファンドとはどのようなものなのでしょうか? 本記事ではその実態やメリットからデメリット、注意点に至るまで徹底的に解説しましょう。

事業承継ファンドとは?

「ファンド」とは、投資家から集めた資金を株式や債券などで運用し、リターンを分配する仕組みのことです。

ファンドの一種である「事業承継ファンド」は、後継者不足に悩む企業の事業を円滑に引き継ぐために設立される投資ファンドを指します。

事業承継ファンドは、企業の株式や経営権を一時的に引き受け、経営支援によって事業をてこ入れして企業価値を向上させます。そのうえで、数年後にM&Aによって売却して利益を得ます。この売却益はファンドの投資家に再配分されます。

事業承継ファンドとM&Aの違い

事業承継には、大きく分けて親族内承継と従業員承継、第三者承継(M&A)の3つのパターンがあります。

事業承継ファンドは親族でも従業員でもない第三者。つまり、事業承継ファンドはM&Aとは別ものというよりも、M&Aの一形態です。M&Aの買い手が企業や個人ではなく、ファンドになるということです。

事業承継ファンドのメリット・デメリットは?

 
それでは、事業承継ファンドを活用するメリットとデメリットはどのようなものがあるかを見ていきましょう。

・メリット

①経営者が売却益を得られる可能性がある!

オーナー企業の経営者は、後継者が見つからなければ、いつかは廃業しなければなりません。その際、従業員の雇用をどうするのかという問題があります。廃業と同時に解雇では従業員に申し訳なく、また、次の再就職がどうなるか、心配です。また、事業用の事務所や資産などを処分する必要もあります。
しかし、その点、事業承継ファンドに株式を売却すれば、M&Aで事業会社に引継ぐのと同様に事業を引き継いでもらうことができます。従業員の雇用も守られ、長年取引してきた顧客も引き継げて、迷惑をかけることもありません。また、譲渡対価をもらって、額の大きさによっては、悠々自適の老後を送れる可能性があります。

②経営支援を受けられる可能性がある!
「企業は人なり」という松下幸之助の名言がありますが、中小企業は大手企業に比べて人材に限りがあります。

ファンドを活用すれば、人材不足を補えるのが大きなメリット。というのも、専門家チームが派遣されて、経営支援を受けられるからです。社内の限られた人材から後継者を選ぶよりも、経営に長けた人材に舵取りを任せたほうが事業の成長を見込めるでしょう。

③企業文化を承継できる可能性が高い!
ファンドの目的は、期間内にできるだけ企業価値を上げてリターンを得ること。徹底した経営支援によって、業務の効率化や利益率の向上を目指します。

ただ、企業理念や企業文化を変えることは基本的にはありません。経営者がそのまま役員として会社に残るケースもあるくらいです。

企業文化が変わらなければ、従業員や得意先への影響も最小限に抑えられるでしょう。

・デメリット

①適したファンドが見つからない可能性がある

事業承継ファンドを活用して事業を承継しようにも、必ずしも支援してくれるファンドが見つかるとは限りません。財務状況が悪化しすぎていると、支援を断られることもあります。
また、たとえ支援してくれるファンドが見つかったとしても、自社が望むサポートを受けられず、事業承継がうまくいかないケースもあります。

②数年後に再度、バイアウトが実施されると、経営者が変わる可能性がある
事業承継ファンドは、出資した企業の価値を向上させた後、売却益を得るためにバイアウトにより、利益を確定させます。要するに今度はファンドがM&Aをして、新しい経営者に引継ぐのです。

そうなると、経営者が交代することになり、二度の承継を経て、企業文化が大きく変わる恐れもあります。

事業承継ファンドの選び方とポイント!

それでは、事業承継ファンドをどのように選べばいいのでしょうか? 主に次の4つのポイントがあります。

①過去の実績を参考にして選ぶ
自社と似たような業界・業種を支援した実績があるかは要チェック。過去の類似事例ではどれくらい企業価値を上げたかも確認しましょう。

②提案内容によって選ぶ
事業承継ファンドはそれぞれ投資姿勢や得意分野が異なります。たとえば、中長期的な視野に立って買収先を成長させようとするファンドもあれば、短期的にリターンを得ようとするファンドもあります。

各ファンドの投資方針や提案内容を吟味して選択しましょう。

③担当者との相性で選ぶ
どの業界でもそうですが、担当者の力量によってプロジェクトの成否が分かれます。これは事業承継ファンドも例外ではありません。信頼できる担当者か、自分と相性がいいかといったことも見極めるようにしましょう。

④専門家に相談して選ぶ
そうはいっても、経営者が自分だけで事業承継ファンドを選ぶのは簡単ではありません。というのも、はじめての経験であることがほとんどだからです。

M&Aに精通した専門家に相談してアドバイスを受けるようにしましょう。そうすれば、適切な事業承継ファンド選びができるだけでなく、M&Aについて幅広くアドバイスしてもらえるはずです。

まとめ

事業承継ファンドを活用した事業承継はM&Aの1つの手法とはいえ、経営支援を受けられたり、企業文化を後世に残せたりするメリットがあります。また、譲渡対価も事業会社よりも高くなるケースもあります。しかし、ファンドはその会社の価値を上げて、さらに売却してリターンを得るというビジネスモデルです。その点を考慮して、検討するべきです。

いろいろなメリットデメリットを総合的に考慮し、会社を残すためにM&Aを検討しているなら、事業承継ファンドの活用も考えてみるといいでしょう。

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著者

小川 潤也

株式会社絆コーポレーション
代表取締役

1975年新潟県新潟市(旧巻町)生まれ。株式会社絆コーポレーション代表取締役社長。大学卒業後、株式会社富士銀行(現・みずほ銀行)入行。法人担当として融資、事業再生、M&Aなどの総合金融サービスを手がける。2004年、医療介護の人材サービスを手がける株式会社ケアスタッフの代表取締役に就任。また銀行勤務時代に培った新規取引先の開拓やM&Aでの経験を生かし、地方都市の後継者不在、事業承継ニーズに応えるべく、株式会社絆コーポレーションを設立。M&Aアドバイザリー事業、スペシャリストの人材紹介事業を展開。著書に『継がない子、残したい親のM&A戦略』(幻冬舎)がある。
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