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従業員承継の注意点! メリットとデメリットを徹底解説

[著]:小川 潤也

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企業の親族内承継が年々減少する一方で、従業員への事業承継を試みる企業は増加傾向にあります。

大企業だけでなく中小企業でも承継手段の一つとして注目を集める従業員承継。

そのポイントを、メリットとデメリットを含めて解説します。

後継者不足を背景に注目される従業員承継

いまや過半数の企業が後継者不在というのは、経営者にとっては周知の事実。

かつての中小企業は、子どもや親戚に社長を引き継ぐのが当たり前でしたが、昨今では古参社員や役員に事業承継するケースが増えています。

従業員承継の現状は?

2021年3月5日に日本商工会議所が発表した「『事業承継と業界再編・統合の実態に関するアンケート』調査報告」によれば、1980年代以前では、調査対象となった企業のうち親族以外に事業を引き継いだ例は1.2%しかありませんでした。

しかし2010年以降では、20%にまで拡大しています。

参考:「事業承継と業界再編・統合の実態に関するアンケート」調査報告

親族外の承継には、社外承継やM&Aによる承継も含まれますが、いずれにしても前経営者の親族以外に承継するパターンが急増しているのです。

従業員承継のメリットとデメリットを解説!

近年増加する従業員承継には、どんなメリットとデメリットがあるのでしょうか。

従業員に事業を引き継ぐメリット

従業員承継の利点は、次の5点が挙げられます。

① 多くの候補者から適切な後継者を選べる
② 会社についてよく知っている人に承継ができる
③ 後継者の育成と引き継ぎに時間をかけられる
④ 新社長と企業文化のミスマッチが生まれる心配が少ない
⑤ 従業員や取引先の納得を得やすい

なんといっても、今まで長く働いてきた従業員が社長を引き継ぐことで、スムーズに事業承継しやすいのは大きなメリット。

くわえて、新社長に対する社内外の反発という、事業承継の重大な懸念をクリアしやすくなるのも魅力的です。

従業員承継で注意したいデメリット

一方、従業員承継には次のようなデメリットもあります。


① 後継者に株式を買い取る資金がない
② 会社の「経営」と「所有」が分かれるリスクがある
③ 承継後の大きな改革が期待しにくい
④ 親族株主から反対が生まれる懸念がある

デメリットについては、メリットよりも複雑です。

一つずつ解説しましょう。

①後継者に株式を買い取る資金がない

オーナー社長が持っている株式の価格は、中小企業であっても数億円から数十億円の規模になる場合が少なくありません。

そのため、事業承継に伴って後継者に株式を譲渡する場合、後継者が費用を捻出できない可能性があるのです。

解決策として、金融機関から資金を調達して経営陣が株式を買い取る「MBO」という方式で株式を移転する方法もあります。

ただし、株価が高い場合は当然調達金額も高額になるので、金融機関の審査は厳しいものになるでしょう。

②会社の経営と所有が分かれるリスクがある

後継者への株式移転が難しい場合、「オーナーは前社長/経営者は現社長」という形で事業を引き継ぐ方法もあります。

ただし、その場合は会社の経営権と所有権の両方が分割されてしまいます。

オーナー社長の絶大な権力で経営を強力に推進できる点は、中小オーナー企業の大きな強みですが、それが失われてしまうことには注意が必要です。

③承継後の大きな改革が期待しにくい

長年働いてきた従業員は、良くも悪くも会社の文化に深く染まっています。

したがって、せっかく社長を引き継いでも、前社長の路線を重んじる承継になりやすいのです。

事業承継は、会社のビジネスモデルを大きく変化させて次の時代を生き残る大きなチャンスですが、現状維持の事業承継に終わってしまう恐れがあります。

④親族株主から反対が生まれる懸念がある

前社長の親族に株式が分散している場合、経営の実権を一族以外が握ることで反発が生まれる可能性があります。

株主のなかに「本当は自分が後継者に相応しい」と思っている人がいる場合、余計に話はややこしくなるでしょう。

最悪の場合、承継後に親族株主が後継社長とは別の候補者を担ぎ上げて、クーデターを起こされてしまうケースもあるのです。

従業員承継を成功させるポイント

従業員承継に際しては、以上のようなデメリットに注意して綿密に準備する必要がありますが、成功させるためのポイントは2つあります。

一つは、株式を後継社長に円滑に移転させるための準備で、もう一つは会社の関係者と事前に話し合って、従業員が社長を引き継ぐ合意をしっかりと得ておくことです。

いずれも、会社を継がせる側になる前社長が主体となり、税理士や金融機関、親族株主、従業員との調整を試みることが重要です。

まとめ

従業員承継は、しっかりと対策すれば、自社文化をよく理解した適任者に社長を引き継げる優れたスキームです。

前社長として、後継者がスムーズに経営を引き継げるよう、最大限の準備を行なわなければいけません。

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著者

小川 潤也

株式会社絆コーポレーション
代表取締役

1975年新潟県新潟市(旧巻町)生まれ。株式会社絆コーポレーション代表取締役社長。大学卒業後、株式会社富士銀行(現・みずほ銀行)入行。法人担当として融資、事業再生、M&Aなどの総合金融サービスを手がける。2004年、医療介護の人材サービスを手がける株式会社ケアスタッフの代表取締役に就任。また銀行勤務時代に培った新規取引先の開拓やM&Aでの経験を生かし、地方都市の後継者不在、事業承継ニーズに応えるべく、株式会社絆コーポレーションを設立。M&Aアドバイザリー事業、スペシャリストの人材紹介事業を展開。著書に『継がない子、残したい親のM&A戦略』(幻冬舎)がある。
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