本記事では、事業だけを売却するM&Aのスキームについてまとめました。
ノンコアの事業だけを手放すというニーズ
経営者の独断であらゆる事業に投資し、スピード感を持って多角化していけるのはオーナー企業の強みです。結果として、創業して期間の経っている企業ほど、主力事業の他にサブの事業を持っているケースが出てきます。
たとえば不動産会社や建設会社が飲食店、介護事業などの店舗・施設系ビジネスを行っているなど、本業で扱うモノや関わる商流の中でノンコア事業としてビジネスを拡大しているケースが代表的でしょう。
そうした中で、ノンコア事業だけを売却したいというニーズが発生することがあります。
「持っている資産に見合った収益が上がらず、会社の戦略として力を入れていく事業でもないので手放したい」「儲かっているノンコア事業があるので、財務体質の強化のためにキャッシュに変えたい」といった事情です。
事業譲渡のスキームで会社の一部を売却する
そんな時に用いるのが「事業譲渡」のスキームです。
通常いわゆる「会社を売る」といった場合は「株式譲渡」のことを指し、株式の売買によって会社の所有権と経営権を移転することになります。
しかし、事業譲渡においては株式ではなく、事業に必要なヒト・モノ(商品・工場)・権利(取引先)などを移転の対象とすることになるのです。これにより、株式譲渡ではできない、特定事業や部門のみを対象にしたM&Aが可能になります。
ただ、事業譲渡には注意点があります。
事業譲渡の注意点
まず、事業譲渡は会社の持つ資産を売買する行為になるので、資産と債権を特定するプロセスが必要になること。
そして大きいのは、事業譲渡では取引先や従業員との契約が引き継げず、すべて締結し直しになってしまうことです。事業が譲渡されて経営主体が代わることに取引先が不安を感じれば、そのまま契約を切られてしまうかもしれません。
また、従業員に対しても一度解雇したうえで転籍してもらうよう頼むことになります。ここで離脱する従業員が出たり、新しい労働条件を巡って問題になったりするケースがあるのです。
契約承継のトラブルは「会社分割」で防げる
こういった問題を避けながら特定部門を売却するために使われることがあるのが、「会社分割」という手法です。
会社分割で特定部門を譲渡するM&Aの場合は事業分割と違い、まずは売り手企業の売却対象となる部分を分割します。そのうえで、分割された会社の株式を株式譲渡するスキームを取るのです。この方式を使えば、取引先や従業員との契約を引き継ぐことができトラブルを防ぐことができます。
また、買い手企業にとってもスムーズである場合が出てくるしょう。
当社がFAとして関わった、建設会社がノンコア事業の介護施設を売ろうというケースでは、会社分割のスキームを使ったことで買い手企業との交渉が非常に円滑になりました。
介護施設を売買するとして、施設の不動産だけ買い取って改めて経営を始めるのでは手間がかかりますが、会社分割であれば、最初から会社という箱と契約がある状態で事業を引き継ぐことができるからです。
手続きの時間がかかることには要注意
実は、大手のM&A仲介会社を噛ませた場合、こういった工夫を提案してくれることは期待できません。
会社分割のスキームを採用するとして、手続きが煩雑になって時間がかかるためです。おおよそ3ヶ月ほど、追加の期間を要します。
したがって、大手のM&A会社からすれば「面倒なので提案しない」となるわけです。売り手企業のオーナーが自分で勉強しない限りは、M&Aを諦めるかリスクを覚悟で売却するしかなくなります。
M&Aにおいて重要なのは、売却した会社や事業がその後、長く続くかという観点です。そうした大局的な視野を持って、労を厭わずにスキームを提案してくれるM&A業者と契約を結ぶべきでしょう。
まとめ
M&Aにおける売却には、様々な方式があります。
今回紹介した株式譲渡、事業譲渡、会社分割などの手法にしても、それぞれ一長一短。どのスキームが適しているのかは、買い手企業と売り手企業が求めていることがそれぞれ何なのか、ということ次第になってきます。
債権の有無やその金額によっても適したM&Aのあり方は変わってくるので、画一的にスタンダードな手法で進めようとするM&A業者は避けたほうが安全でしょう。
小川 潤也
株式会社絆コーポレーション
代表取締役