M&Aを進めるにあたっては、専門のM&A業者にアドバイスを仰ぐのが基本です。とはいえ、売り手企業の側にも最低限、知っておくべき注意点は存在します。
ごく基本的な注意点を5つにまとめ、解説しましょう。
注意点①M&A業者は安易に選ばない
売り手企業の経営者がM&A業者を選ぶという経験は、そうそう何度もあることではありません。
だからこそ、とりあえずネットで検索して大手のM&A仲介会社を選んだり、よく調べずに知り合いから紹介してもらった業者に相談したりすることは絶対に避けましょう。大手のM&A仲介会社は中小企業にとっては手数料ばかり取られてマッチしないことが多いですし、中小のM&A業者の質は玉石混交です。
自分の会社と近い業種で豊富な実績があるか、売り手の側に立って弁護士や会計士などのプロと適切に連携してサポートしてくれる業者であるかなど、面談してヒアリングのうえで慎重に業者選定してください。
注意点②細かく提案・報告してくれるM&A業者に依頼する
M&Aはほとんどの経営者にとって初体験となるプロジェクトです。サポートを依頼するのは、あなたがM&Aについての知識を持っていないことを踏まえて適切にフォローしてくれる業者が望ましいでしょう。
買い手のリストからどのように候補を絞るべきかアドバイスしてくれる、「今、こんな会社と交渉しています」などと細かく報告して安心させてくれる、買い手候補から意向表明書をとって条件の比較がしやすいようアレンジしてくれる……そんな業者に依頼すべきです。
M&Aによる売却は、成立による買い手・売り手双方のシナジーや売却価格の根拠、会社の未来の姿などをすべて正確に理解したうえで決断されなければいけません。その状態まで持っていけるかどうかは、M&A業者の質にかかっているのです。
注意点③M&Aについては絶対に秘密にする
売り手企業がM&Aを検討する場合、社内の腹心や取引先、知り合いの経営者に安易に口を滑らせてしまうことが少なくありません。しかし、M&Aを検討していることは、アドバイザーとなるM&A業者以外には秘密にしておくことが鉄則。社外に対する信用不安を招いたり、従業員の間で動揺が走ったりするリスクが非常に高いからです。
また、M&Aの世界では自社が売りに出ていることが広く知られて「有名案件」になると、それだけで買い手がつきにくくなってしまいます。基本的に、自社を売却することは、買い手企業と本契約を結んだ後までは公表しないのがM&Aの常識です。
注意点④社内の書類や株式の保管・整理を徹底する
M&A業者と面談したり、買い手企業と交渉したりするのにあたっては取引先一覧や月毎の売り上げや利益の管理表など、提出すべき資料のリストが提示されることが一般的です。
この時、求められた資料がすぐに出せないようでは、それだけで「この会社は大丈夫なのか」と思われてしまいます。株主総会議事録や取締役会議事録が保管されていない会社も時折見られますが、スムーズにM&Aを進めるためにこれらの書類は必ずまとめておくようにしましょう。
また、株式が発行されていることになっているのに実際は発行されていなかったり、株式がどこにあるのかわからなくなっていたりいるケースもたまに見られます。株式がなければ会社の売買はできませんから、M&A業者としては非常に困ってしまうのです。
書類や株式については、普段からきちんと管理しておくようにしましょう。
注意点⑤買い手企業との交渉は誠意を持って取り組む
売り手企業にとって、あくまでM&Aとは自社を「買ってもらう」プロセスです。自社の商品やサービスを売り込むのと基本は同じである、という意識を持つべきでしょう。
売り手として希望する譲渡価格ばかりを強硬に主張したり、買い手側の意向やスタンスを尊重しない言動をとったり、自社に不利な情報を隠したりすれば当然、M&Aはうまくまとまりません。
会社を売るという一世一代のプロジェクトにあたっては、経営者の視野が狭くなってしまいがちです。この点についても、売り手の側に寄り添いながらも中立の視点を持って指導・助言してくれるM&A業者の存在が不可欠です。
まとめ
M&Aは買い手の企業や、依頼したM&A業者との深い信頼関係があって初めて成り立つものです。伝える相手を間違える、依頼する業者を間違える、交渉する買い手候補を間違える……いずれもM&Aが成立しないどころか、致命的なトラブルに繋がる危険性も非常に高くなります。
M&Aの手続きや交渉には時間がかかりますし、交渉が進んでから破談になってしまえば次の買い手候補は簡単に見つかるものではありません。基本的には一発勝負、と覚悟を決め、慎重に慎重を期してパートナーや買い手候補とのやりとりを進めていきましょう。
小川 潤也
株式会社絆コーポレーション
代表取締役