一連の譲渡プロセスを終えたアグリコネクト代表・熊本社長に、その経緯と学びを伺いました。
“本業回帰”のために、事業譲渡という選択をした理由

−−−−まず、事業をスピンアウトしようと思ったきっかけはどのようなものでしたか?
熊本:弊社は農業を専門としたコンサルティングの会社です。創業から13期目に入っていますが、コンサルティングを中心としつつ、全国の農業法人や農家にさまざまなサービスを提供する中の一つの事業が、アグリピックという、WEBを使ったメディア事業部でした。
何年かこれを頑張ってやってきましたが、今後事業のさらなる拡大に向けて、本業であるコンサルティング業にもう一度人的・資金的なリソースを集中しようということになり、メディア事業はいったん、どこか外部に引き継ぎたいと考えたのです。
−−−−引き継ぎにあたっては、どんなことから準備に取り掛かりましたか?
熊本:まずはやはり、農業分野で継いでくれる会社があるのではと、お付き合いのある会社や金融機関をリストアップするところから始めました。ただ、その先どのように話を持ちかけたらいいのかわからず、結局リストアップだけで終わってしまいました。その後はいくつかのM&A会社に当たってみたり、メディア専用のM&A会社に連絡をしてみたりしました。
−−−−絆コーポレーションを選んだ理由、決め手となった点を教えてください。
熊本:小川社長のことは以前から知っており、そういえば小川社長はM&Aをやっていたから、こういう案件も受けてもらえるのではと思いました。ただ、我々も事業譲渡しようと決め切っているわけではなかったので、最初は相談という形でご連絡したんです。その時、進め方など非常に分かりやすい説明をいただいたので、契約させてもらって進めていくことにしました。
−−−−その上で買い手候補を探し始めたわけですが、苦労された点はありましたか?
熊本:もともと売却するつもりでやってきた事業ではなかったので、説明するときの数字や資料のまとめ直しは必要になりました。その点で新しい仕事が増えたというのはありますね。あとは、売却に動いていることを社内でいつ公表するかという点は多少苦労しました。売却が終わるまでは告知はごく少数のメンバーに留めて、うまく回していくという点では、やや苦労もあったかなと思います。
「誰に託すか」が未来を左右する――譲渡先決定の裏側
−−−−売却先を決める際に一番気にされた点はどんなところでしたか?
熊本:いろいろな企業を紹介してもらえたので、「こういう会社も関心を持つのか」という、想定していなかった業界や規模感の企業も多かったですね。そういう意味では非常に勉強になりました。最終的な譲渡先は、同じ業界で農業分野の会話ができたことが決め手になりました。中には、ITは得意だけど農業は全く知らないとか、収益になるなら何でもいい、という企業もありましたが、そうではなく、やはり「業界のために」という意識が一緒だった企業なので、とても良かったと思います。
−−−−売却を迷われる時もあったと思いますが、意思決定に至るまでのお気持ちはどのようなものでしたか?
熊本:いろいろな事業に共通して、「何をやるか」より、「誰がやるか」に重点を置いて経営をしてきているので、この事業においてもやはりそこが重要でした。もともと、この事業を立ち上げてみたいという若手がいたので、彼の勉強代だと思ってやり始めたのが、思いのほかうまくいったという経緯があります。今回は、人的なリソースをコンサルに集中させようという意図があったため「誰が」の部分がなくなってしまったわけです。それが、事業は収束させるか人に頼んでいきたいと思った背景なので、そこは迷わずスムーズにいけたと思います。
コンサル企業が自らM&Aを経験して得たリアルな学び
−−−−メディア事業だけの譲渡というやや特殊な形ではあるものの、事業のスピンアウトはアグリコネクトさんでは初めての試みだったと思いますが、完了されてみての感想はいかがでしょうか?
熊本:相談から半年間、ようやく1つのプロジェクトが終わってほっとひと安心している状態です。今まで頑張ってきた事業でしたから、意志のある方に引き継いでいただけて、良いマッチングで事業がつながったという点で非常に安心していますし、社内のメンバーにとっても納得感がある結果となりました。
コンサル業をやっている立場上、M&Aの相談を受けたり、違う会社のデューデリジェンスをやったりという経験はありますが、自社でやるというのは一番勉強になるなと感じました。例えば、1日単位の細かなタイミングを逃してはだめだとか、紙面には書いてないようなことが体感できたのは非常に良かったなというのが、一番の収穫ですね。
あとは数字的にも、内部で思っていた数字と、外部が厳しい目で見る数字とは違うというのも非常に勉強になりました。
−−−−御社は数値管理に関しては非常に細かくデータを取っておられ、しかもメディアの現在の状況を数字で細かく表現することができたので、それは買い手の安心材料に繋がったと思われますが、もともとそういった経営方針なのでしょうか?
熊本:結構、数字の好きな社員がいて、これは多分コンサル業の職人病というか、数字がきれいに合っていないと気持ちが悪いみたいなところはあるので、会社の規模が大きくない割には、数字的には結構クリアで整理されている会社だと思います。
−−−−絆コーポレーションのM&Aのプロセスの対応について、何かお気づきになったことがあれば教えてください。
熊本:日頃のコミュニケーションは安心して行われたと思います。連絡は多すぎず少なすぎず、バランスのいいコミュニケーションでした。小川社長もバックオフィスの皆さんも、書類などでついつい忘れてしまいがちなことに関して、リマインドのタイミングも良く、スムーズに対応していただけたことは非常に満足しています。
−−−−買い手候補のマッチングのご提案についてはいかがでしたか?
熊本:まず買い手が付くのかな、という不安もありましたが、そこについては思った以上にいろいろ出してもらったので、満足度は非常に高いです。最終的に決まった譲渡先はすばらしいですが、その前にも、ここでもいいな、という会社も何社かありました。そういう意味ではマッチングも問題なかったと思います。
「誰かにバトンを渡せるか」――譲渡を検討する経営者へ伝えたいこと
−−−−これから事業譲渡を考えていらっしゃる経営者に向けて、経験者としてのアドバイスがあればお願いしたいと思います。
熊本:M&Aというのは今盛んなトレンドで、日本だけでなく海外でも当たり前なので、経験値は非常に重要ですから、自分でやってみて本当に良かったなと思います。
もう一つ、事業譲渡する際に必要なこと、運営する時に必要なこと、スタートする時に必要なことは、それぞれ全然違うなと感じています。仮に譲渡・売却を前提に運営やスタートアップをやってみるとどうなるかと考えるのは、経営者として非常にいい思考回路だなと思いました。売却が目的で事業をやれという話ではないのですが、それを考えた上でスタートアップして運営していくと、結構、整理整頓される。要は、経営者が誰かにバトンを渡しやすくすることだと思いますので、その状態をイメージしながら今後の仕事を整理することもできるという意味で、いい経験だったと思います。数字やオペレーションの整理は別に売却目的でなくても、会社として実施した方がよいでしょうし、もし少しでも譲渡を考えているなら、他者の目から見て分かりやすく整理することは非常に重要だと思いました。
−−−−最後に、アグリコネクト様の今後の事業の展望をお聞かせください。
熊本:「日本の農業を強くする」をミッションに掲げてやっている会社なので、その事業の成長発展を目指していこうと思っています。日本の地方や農家は衰退しているとよく言われますが、我々の目の前にいるお客様は発展成長している自治体や農家が多いですね。この方々がもっと発展していくように伴走、協業をするのがうちの仕事だと思っています。メインはコンサルティング業務ですが、地方自治体の政策を作ることもあり、農地管理や農業土木の業務も始まっていますので、日本の国土を活かした食農産業の発展に向かって頑張っていきたいと思っています。
まとめ
「農業の発展によって、社会の幸せを実現する」という理念のもと、農業に特化した経営コンサルティングに取り組むアグリコネクト株式会社。想いを一にする企業とのマッチングによって、今後もより一層の事業発展を目指して進んで行かれることをお祈り申し上げます。
小川 潤也
株式会社絆コーポレーション
代表取締役
