ローカルM&Aマガジン
そして、中には経営者の長年の習慣で会社が気になる経営者も……M&A後の会社への関わり方についてまとめました。
M&Aの条件によってその後の関わり方は変わる
M&A後の会社への関わり方は、買い手企業と合意した条件によって、大きく以下のパターンに分かれます。
① 完全に辞める
株式の所有権を手放して会社を辞め、すっぱり引退するパターンです。
高齢の経営者の場合でもちろん多くなりますが、現役世代でもM&A後は一切会社に関わらず、次の事業を興したり趣味やボランティアに集中したり、売却代金を元手に投資家になったりといった道に進む人がいます。
高齢で引退する経営者の場合、奥さんと二人で海外旅行に行くなど悠々自適に余生を過ごす人が多いようです。
② 経営者を続ける
株式は買い手企業に売り渡しながら、雇われ社長として経営を続けるパターンです。
仕事としては売却前と大きく変わらないことになりますが、会社のオーナーは買い手企業になるので、オーナー経営者特有の収入の不安定さや会社の借金の個人保証といったマイナス要素から解放されるのが大きなメリットでしょう。
経営者個人が会社の売り上げに影響する部分がかなり大きいような場合、買い手企業から続投を求められることもあります。向こう1年、向こう3年など期限付きで経営者を続け、買い手企業からやってきた後継社長にじっくりと引き継ぎをするスキームもあります。
③ 子息が従業員として続ける
子息に会社を任せられないので、売却するケースです。
息子に経営者としての資質はないと見抜いた上で、息子は他で転職するとか会社を起こすことも難しいと苦渋の決断だと推察されます。その場合は買い手企業が連れてきた人材に後継社長を任せ、自分は引退するけど、子息は従業員とし会社に残ります。
息子は後継者という負担・プレッシャーがかかる業務から解き放され、新しい経営者の元、会社で働き続けることがメリットです。
④ 社外人材として関わる
「顧問」「コンサルタント」などとして、社外から会社に関わります。金融機関や外注先、官庁筋など、会社が元オーナーの人脈に頼りたい場合に相談を受けたり、後継社長が重要な判断をする際のオブザーバー役になったりする場合が多いようです。
会社から報酬を受け取っても問題ありませんが、買い手が納得できる金額かつ、社会常識の範囲内に収める必要があります。
「老害化」しないように注意を
このように、M&A後の会社への関わり方には様々なパターンがあります。売り手と買い手それぞれの意向と会社の状況次第なので、これが正解!といったことはありません。
最もシンプルなのは、すっぱり引退して会社と関わらないことでしょう。会社のその後は新オーナーの手腕と従業員の頑張り次第です。
何らかの形で会社と関わり続ける選択を取る場合、気を付けたいのは「名残惜しいから何かしらの形で関わりたい」といったモチベーションで判断しないことです。私がお手伝いした案件ではそのような方は1人もおりません。譲渡された方はみなさん、清々しい顔で新しい人生を満喫されておられるようにお見受けします。心もどこかでは寂しい気持ちがあるのかもしれませんが、そんなことはちっとも話にはでてきません。
むしろ、会社の前を通りかかっても、もう自分の会社ではないのだし、挨拶しても気を使われるのが嫌だからと遠くから見守られておられます。お茶を飲みにきたと会社を訪れたら、歓迎されるのでは思っておりましたが、確かにその通りです。M&Aで会社を譲渡して引退した前社長が、ふらっと会社に現れる。後継社長や幹部、従業員は温かく迎えてくれることでしょう。しかし、新体制になっているのだから、万が一、新社長や従業員から相談されても、困ってしまいます。
経営者であれば重々承知でしょうが、特に中小企業は、トップを中心としたシンプルな体制で方向性を統一し、全員一丸となって進んでいくことが非常に重要です。元オーナーの中途半端な口出しでガバナンスを乱してしまえば、大幅な業績悪化のリスクもあると肝に命じるべきでしょう。
まとめ
M&Aで自社を売却した後に、元オーナーがどのように会社に関わるのかについてまとめました。
重要なのは、あくまで自社の売却後の経営を最優先に考えること。例えゼロから立ち上げて長年打ち込んできた事業だとしても、M&Aすれば100%他人のものになります。自分のもの、という意識をきっぱり捨て去り、未練を断ち切らなければいけないのです。譲渡すると決めたときにすでにその覚悟はあるかどうかということではないでしょうか。
小川 潤也
株式会社絆コーポレーション
代表取締役