ローカルM&Aマガジン

「受け継がれてきた工場を未来へつなぐ」 ――地場産業のOEMアパレルメーカーが選んだ M&Aという事業継続のかたち

投稿日:2025年12月8日

[著]:小川 潤也

古くからの織物産業の発展形としてアパレル産業が盛んな新潟。ただ近年は海外生産の影響で厳しい状況に直面する企業も少なくありません。そんな中の一つ、老舗工場の6代目Y・K様は、さまざまな経営努力の末にM&Aという結論にたどり着き、伝統的な地場産業の灯を消すことなく事業継続に成功しました。Y・K様にM&Aの成功体験を伺いました。

●栄えた地場産業が時代の変化で危機的状況に

――御社のこれまでの歩みと事業内容についてお聞かせください。
弊社は百貨店などで扱っているブランドのアパレル製品の下請け、つまりOEM生産をする工場です。創業したのは私の祖父でした。その後は私の伯父にあたる祖父の長男、次男である私の父、伯父の息子と代替わりし、私が5代目ということになります。
新潟はもともと織物産業が盛んな土地柄で、染屋さんや糸屋さんといった繊維関係のインフラが整っていたこともあって、戦後はニットなどのアパレル産業が発展しました。1990年代のピーク時には出荷額300億円ほどになったそうです。

――それほどに発展していた地域の産業ですが、その後は厳しい時代に入ったと伺いました。
まず、アパレル製品の生産が中国など海外に移っていったことが大きいですね。業界全体がそういった流れで、国内生産は数パーセントまで極端に落ちています。当然価格競争も激しくなり、煽りを受けてこの地域の工場もだんだん経営が厳しくなっていきました。300億円あったものが、今は50億まで落ち込んでいる状況です。県内の同業他社も、M&Aで引き受け手を探したところもあれば、倒産したところもあります。私は会社を継ぐ前は専務をしていましたが、当時から経営の厳しさは肌で感じていました。

●外部資本の導入と再建――家族の会社を守りたかった

――そういった業界事情の中、御社でもついにM&Aを検討されるに至った経緯は?
まず、3年ほど前に一度、ファンド資本が入っています。その時に、私のいとこにあたる4代目の代表が辞任し、専務だった私がファンドとともに再建をするということで新たに代表になりました。
新しい資本を入れてもらい、債務の削減をしながら会社の再建を目指しました。しかしやはり思うような結果が出ず、ファンドも追加支援は難しい状況だったので、次の手段としてM&Aを考えたという経緯ですね。

――M&Aを考えるにあたって絆コーポレーションはどのように知りましたか?
お取引のある金融機関にご紹介いただきました。小川さんにお会いしてご相談したのが今年に入ってからなので、そこから譲渡先が決まってM&A締結までが数ヶ月という、非常にスピーディーな進み方でした。

●M&Aという最終的な決断に踏み切る

――最終的にM&Aの決まった譲渡先はどのような会社ですか?
たくさんの候補をあたっていただきましたが、実際に話が進んだのは2社でした。アパレルメーカーさんで、うちのような工場を持ちたいと考えていたようです。
もう1社、香港資本の会社もありましたが、結局は対応の早かった国内の会社に決まりました。何が決め手かは具体的には伺っていませんが、アパレルOEMの工場としては長いので、実績と技術力が買われたのかもしれません。

――従業員の方々の雇用はどうなりますか?
従業員は50名ほどおりますが、リストラなどの話もなく、全員引き続き雇用は継続されています。経営者が変わることについての反発などもありませんでした。私自身は、先方の要望で執行役員という形で残り、そのまま会社の経営業務にあたっています。
年齢が60代後半なので、会社に残れる時期まで残ったらあとは引退してゆっくりしてもいいと考えています。

――M&Aで苦労した点はどんなことでしたか?
提出資料がいろいろありますので、その作成はやはり大変でした。何より、資金繰りの関係で引き渡しの期日が決まっていて、時間切れになるかどうかギリギリのところまで譲渡先が決まらなかったので、心理的に大きなストレスはありました。
情報収集から契約締結までが非常に短期間でしたが、小川さんのフォローが丁寧で、信頼できたのがありがたかったです。たいへんよくやってくださったと思います。

●M&Aを経て――経営者としての思い

――M&Aを無事に終えた現在のお気持ちは?
経営面での苦労がなくなったことはもちろん、従業員の雇用も守れたので、ほっとしている部分もありますが、祖父の代から一族で守ってきた会社を手放したことには、残念さもありますね。ただ、倒産するところも多い中で、少なくとも工場自体は引き継ぐことができたので、その点はやはりよかったと思っています。

――今後M&Aを考えている経営者の方にメッセージはありますか?
結局、判断はそれぞれの経営者自身がするしかないので、どうしたらいいというアドバイスはできません。弊社の場合は時間の制限があったにもかかわらず、幸いにも良い結果になりましたが、なるべく早いうちから動いて、譲れない条件なども明確にした上で、時間をかけてじっくり検討されるのがよいと思います。

――肩の荷を下ろすと同時に、今までと変わらず会社の経営にも携わるという形で無事にM&Aを成功させたY・K様。今後も社員の皆様と共に日本のアパレル業界を支え続けていただきたいと思います。ますますのご発展をお祈りしております。

著者

小川 潤也

株式会社絆コーポレーション
代表取締役

1975年新潟県新潟市(旧巻町)生まれ。株式会社絆コーポレーション代表取締役社長。大学卒業後、株式会社富士銀行(現・みずほ銀行)入行。法人担当として融資、事業再生、M&Aなどの総合金融サービスを手がける。2004年、医療介護の人材サービスを手がける株式会社ケアスタッフの代表取締役に就任。また銀行勤務時代に培った新規取引先の開拓やM&Aでの経験を生かし、地方都市の後継者不在、事業承継ニーズに応えるべく、株式会社絆コーポレーションを設立。M&Aアドバイザリー事業、スペシャリストの人材紹介事業を展開。著書に『継がない子、残したい親のM&A戦略』(幻冬舎)がある。
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