会社譲渡を決断する人、しない人。Vol.4
こんにちは。絆コーポレーションの小川潤也です。
譲渡を決断できる人、できない人、両者の共通点
M&Aを事業承継のひとつの選択肢とお考えになる方が増えています。
「会社を売りたい」「会社をM&Aで譲り受けたい」
弊社に寄せられる双方のご要望は事業の業態や規模によってさまざまですが、数多くのM&Aに立ちあってきた経験からある傾向が浮かび上がってきました。それは交渉場面ですぐに決断できる人と決断できない人がいるということ。
そして、両者の特徴には共通点があることです。
まず、決断が早い方に共通しているのは事業を引き継いだ後、いわゆる「ハッピーリタイア後の人生」に対するビジョンを具体的に持っているということです。これまで二人三脚で事業を支えてきてくれた妻への恩返しとして世界一周クルーズを楽しみたいとか、事業が好調のときに会社を譲り、株主として後継者を見守ることを第二の人生の楽しみとする、などです。
また「手塩にかけて育てた従業員を一人残らず雇用存続してくれるなら、事業方針の刷新には一切口出しをしない」など、会社を引き継ぐにあたり、これだけは譲れないポイント、ここまでは譲歩してもいいという線引きがとても明確であることも特徴的です。
一方、決断を先延ばしにする方に限って事業売却後の生活のビジョンが描けない傾向があります。特に創業オーナーほど事業に対する執着が強い傾向にあります。
「廃業するくらいなら、譲渡した方が賢明」と一見、M&Aに理解をしめした体でも、膝を突き合わせてお話を伺っていくうちに、「まだ隠居したくない」という本心が露わになることもしばしばです。
「仕事がいきがい」の人生が長かった人ほど「まだやれる」と思ってしまうのでしょう。未練を断ち切り、事業を手放す決心こそが最大の難問になってしまう。実は当事者である事業主自身がこの本心に気づいていないケースも多いのです。
経営者の3つの責任
譲渡したいとの相談後、企業評価額が希望金額よりも高くても「時期尚早である」と逡巡されたり、というケースも少なくありません。
もちろん、事業に対する執着がなかなか断ち切れないのは当然のことです。
時代の変化や景気の悪化、時には規制緩和など思いがけない外的要因や人材不足や資金繰り、負債処理など内的要因も含め、現状の会社の業績には経営者自ら努力奮闘したこれまでの日々、経営者自らの歴史と物語のすべてが詰まっているのですから……。
ただ、「もうすこし頑張ればもっと高値がつくだろう」「まだいける」と先延ばしにしたばかりにその後、評価額が下がり、「こんなはずでは」と後悔することだけは避けたいものです。「企業の永続」という本来の目的を見失って「売り時」を見誤るのは厳しいようですが、やはり本末転倒といわねばなりません。
それでも、どうしても決断できず、逡巡してしまうのなら。
M&Aを考えはじめた時の初心に立ち返ってみませんか。
あなたがM&Aを選択肢として考え始めたのは「廃業」を回避し、「事業の永続」を願ったからではありませんか。その目的を全うするためには責任が伴う、と私は考えています。
M&Aで事業を引き継ぐ場合、経営者には下記の3つの責任が伴います。
1、経営責任
経営者として事業を引き継いだ後、持続させる責任
2、株主責任
出資者として事業を見守る責任
3、雇用を守る責任
従業員の雇用を継続保証する責任
上記の3つの責任がよく熟考されたM&Aの交渉は驚くほどスムーズです。また3つのバランスがとれていることも重要なポイントです。
どこかに偏りがあった場合、必ずどこかのタイミングでもめたり、交渉が長引いたりします。
たとえば、経営責任に重点を置くあまり、債権者への説明がおざなりになったり、株の売却後、法的な責任から免れた解放感からつい出資者として見守る責任がおろそかになったりするケースがよく見受けられます。
また売却前の調査を怠り、売却先の企業が関連子会社と敵対関係にあったため取引に支障が出るなど譲り渡した後に問題が発覚するケースも少なくありません。この辺り、充分に留意していただきたいものです。
リタイア後の「見守る」楽しみ
M&A後、経営者の多くは清々しい面持ちで「自分がいなくても、ビジネスは回っていく」と仰います。それはもちろん、新しい経営ボードへの配慮であり、「古株は潔く去るべき」という美学でもあるのでしょう。その反面、譲渡後も「事業のゆくえ」が気になって仕方がない方も少なからずおいでになるはずです。
そこで、こんなふうに考えてはいかがでしょうか。
これまで共に頑張ってくれた社員たちが新しいオーナーのもとで活き活きと仕事を続ける姿を見届けることもオーナーの大事な責任。リタイア後も、元オーナーとして事業が健全に続いているかどうか「見守る」楽しみは残されているのだ、と。アクアリウムを楽しむように。